第11話 お母さん救出作戦

「それじゃ黒服の男性達に連れられた女性が、父のお屋敷に入ったのね?」

 マーサさんが伝えに来てくれてから二日がたった。

 シスターエマにお願いして実家の様子を見に行ってもらった結果、やはり母の姿はなく、部屋の中は荒らされた形跡はもなかったとの事。

 その様子から黒服の男達は母に危害をくわえるつもりがないと分かるが、連れて行かれた理由がわからない以上安心は出来ない。

 まさか怪盗の正体がバレているのかもと思ったが、未だに私に接触してこない事からもその可能性は低そうだ。

 仮に正体がバレているとしたら、すぐにでも私を呼び出して問い詰めればいいだけの話だし、母を連れ出したのだって私に言う事を聞かすための人質として利用するためのはずだ。それなのに私には何の接触もないどころか、直接母を連れ出したという話も持ちかけてこない。


 結局母が何故連れていからたのかが分からないまま二日が経ってしまったのだが、複数の黒服の男性に連れて行かれる少し年配の女性、というやたらと目立つ特徴を聞けば、出るわ出るわ彼方此方から目撃証言が出てきて、最終的に父のお屋敷に入っていったという話を最後に目撃者がいなくなったという訳だ。


「それとお屋敷で働いている使用人からも話を聞く事が出来たのですが、どうも連れてこられた女性は本邸とは別の離れの建物に囚われているらしいのです」

「離れの建物ね、それだけ分かったら十分よ。明日にはフィル様が戻ってこられるので今日中に全てを終わらすわ」

 父のお屋敷には以前一度だけ忍び込んだ事があるので大体の要領は分かっている。確かに本邸とは別に離れの建屋があったし、敷地内の見取り図も頭に入っている。

 後はお母さんを助け出した後の事だが、こっそりフランシスカ領で暮らせるよう手配をすれば問題ないだろう。


 フィオナにもう一度遣いを頼み、救出後シスターエマと落ち合う場所と詳細を書いた手紙を届けてもらうよう手配する。

 リゼット義姉様との約束を破る事になるが、『もう少ししたら全てが終わる』ともおっしゃっていたので、恐らく先日金庫に入っていた書類に、今までおこなってきた悪事の証拠でも書かれていたのだろう。

 全てが終わるのだとしたら例え裁きの場に出されても私は後悔しない、だから最後に一度だけ怪盗になる事を許してもらいたい。

 これが闇夜のプリンセスと呼ばれる私の最後のお仕事なんだから。




 暗闇の中大きなお屋敷が見える。あれが以前侵入した事がある父が暮らす建屋で、更に薄暗い奥に見える建物がお母さんが囚われている別邸だろう。

 建物はどちらかというと物置に近い作りで、大きさもそれほど大きくなく、侵入防止用か中から逃げ出せない為かは分からないが、窓には外側から鉄格子が付けられている。


 見る限りでは建物の周りを警備する人の姿はないが、部屋の中からガラス越しに光が漏れていることから、中に誰かがいることは明白。

 暗闇に紛れてコッソリ建物の陰に近寄りサーチの魔法を起動すると、部屋の中に椅子にでも座っているのだろうか、一人の人間の形が脳裏に浮かんだ。

 私の魔法では検索の対象物を思い浮かべる容量で探し出す事が出来るのだが、色や性別、容姿などといった細かなところまでは分からない。今のサーチで引っかかった人がお母さんとは限らないが、鉄格子がついた部屋に入れらている人が普通の使用人とは考えられないので、なんらかの理由によって囚われている事は間違いない。何んにせよ、お母さんと違ったとしても助けださなければならないだろう。


 私は月が雲に隠れるタイミングで扉のところに近寄り、持っていたフックピックと呼ばれる鍵開け用の道具を鍵穴に差し込む。正直ピッキング作業は得意ではないが、幸いこの扉は旧式のようなので何とか不慣れな私でも開けられそうだ。

 何度か道具を出し入れしながら引っかかりの突起を探り当て、ゆっくり上下に動かすとカチャと言う音と共に鍵を開けると、私は音をたてないようそっと扉から中へと入る。

 部屋の中の印象は思っていた以上綺麗に掃除をされており、十分暮らせるような家具が一通り揃っていた。ただ贅沢をいうなら香水か何かの甘ったるい匂いだけは何とかしてもらいたいのだが、向こうからすれば持ち主ではない私に言われる筋はないだろう。

 更に奥の方へ足を運ぶとこちらに背を向けて椅子に座った一人の女性、まだこちらに気づいていないようだけど、後ろ姿から見える髪の色と長さから限りなくお母さんに近い。私は流行る気持ちを抑えながら脅かさないよう、離れた位置から小声で話しかける。


「怪しい者ではございません、助けに来ました。」

 自分で言うのなんだが怪しい姿をしている私に、怪しい者ではないと言われても戸惑うだろうが、ここはセオリー通り受け止めてほしい。


「あれ?」

 普通ならここでビクッっと反応をされこちらを振り向いてくれるのだが、椅子に座った女性は振り向くどころが全くの無反応。もしかして眠っているのかを思ってそーっと近づいてみると。

「なにこれ、人形?」

 椅子に座っていたのは人でもお母さんでもなく、木で作られたマネキン? に服とウィッグを着せただけの人形だった。

 他に部屋の中に人影がいない事はすでに魔法で確認済みだし、人形が向いているテーブルにはご丁寧に中身が入ったティーセットまで用意されている。


「こういう趣味でもあるの?」

 これはある意味不気味な光景かもしれない。普段は威張っている父が、夜な夜なこっそり等身大サイズの人形遊びをしているとは誰にも知られたくないだろう。一瞬脅しのネタに使ってやろうかと思ったが、何故知っているんだとか突っ込まれた時に言い訳のしようがない。ここは大人の対応として黙っててあげるのが娘心ではないだろうか、父だとは思っていないが。


「それにしても建屋を間違えたのかなぁ?」

 今いる場所の他に物置らしき建物や馬車などがしまわれてる建物があったが、ここが一番怪しい場所に建っているのと灯りまで漏れていたので、てっきりこの建物だと思い込んでいた。どちらにせよ、灯りが付いていると言う事は誰かが戻ってくる可能生があるので、直ぐにでも離れたほうがいいだろう。

 そう思い、出口の方まで向かおうとした時


「あれ? 体が痺れてる?」

 気づけば手足の感覚がなくなっており、まともに歩く事が出来ない。そういえば入った時から気になっていたが、この甘ったるい匂いってどこかで……

 ここまで考えたが、すぐに頭が空中に漂うに感覚に見舞われ、私はその場で意識を失うのだった。

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