第9話 金庫の開錠はノコギリで
「……なるほどね、それで腕輪を奪い返しに来たと言うわけね」
ぐすん、結局逃げる事も誤魔化す事もできず、なぜお屋敷に潜入したかを喋らされました。
「で、他にも最近噂の怪盗がクリスなのかどうかと、色々聞きたいところではあるのだけれど、それは一先ず置いておいて、その金庫どうやって開けるつもりなの?」
ビクッ 最近噂の怪盗と言う言葉が出て一瞬焦りましたが、どうやら見逃してもらえるようなので一安心。このお屋敷はいちお実家? みたいなものなのでお義姉様に泣きつけば何とかなる? ような気がしてきました。
「えっと……ノコギリとか?」
「はぁ……開くわけないでしょ」
まさか金庫ごと盗んだはいいが、開ける方法まで考えていませんでしたとは言えず、開けられる可能性の一つを挙げてみましたが、即却下されちゃいました。
「それよりそれ重くないの?」
お義姉様が未だ両手で抱えている金庫を見ながら尋ねてきます。
「あ、はい。魔法で軽くしているので大丈夫です」
「へぇー、魔法がつかえるのね。まぁいいわ、とりあえずその金庫を見せて頂戴」
言われる通り一旦金庫を床へと置きます。
「確認するけど、腕輪さえ戻ればいいのよね?」
「はい、まぁ金目のものがあれば施設とかにコッソリ寄付とかしちゃいますが、今日の目的は腕輪だけなので」
「それじゃそれ以外のものは私が貰っても構わないわよね?」
「? はい、別に構いませんよ」
何だか不思議な事を聞いてこられます。貰うも何もこのお屋敷のものはお義姉様のものでもあるわけですから、その言い方はおかしいのではないですか?
私は不思議がっている目の前で、何処からか数字の書かれた白い紙を出してきて、金庫の前でダイヤルを右に回したり左に回したりされていると、カチッっと言う音と共に扉が開きます。
「これかしら、ちょっと中身を確認して」
金庫の中に入っていた木箱を取り出しながら私に渡してくださり、中身を確かめると白い綿につつまれた昨日奪われた腕輪、手にとって確かめてみると木箱と綿のおかげで傷一つないようでホッと一息。
よくよく思い出せば金庫を持ったまま飛び蹴りかましてたっけ、すっかり中身の事を忘れていたわ。
私がお礼を言おうとしたらお義姉様は中に入っていた紙の束を熱心に見ておられます。
「あのー、この腕輪で間違いありませんけど」
「あー、ごめん。この書類全部貰ってもいいわよね? お金になるようなものじゃないし」
「はい、別にいいですよ。紙切れなんかに興味ありませんから」
羊でもないんだから紙切れなんて要りません。むしろゴミか暖炉の火種ぐらいしかなりませんからね。
「あと悪いんだけど、この金庫帰る途中に何処かにすてておいて。それと今回の事は黙っててあげるから、私がこの書類を貰った事も誰にも言わないでね」
「見逃してもらえるんですか!」
「今回だけよ、もう危ない事しないでよね。仮にも私の義妹なんだから」
「うぅ、ありがとうございますお義姉様」ぐすん
「それじゃ見つからないように帰りなさい、それじゃまたね」
「はい」
私はお義姉様に見送られながら再び夜の空へと溶け込んでいった。
「で、最近噂の怪盗ってのはクリスの事なのね?」
「……はい」しゅん
見逃してくれませんでした。
あれから3日後、なんの連絡もなく突然伯爵家にやってきたお義姉様。特に予定もなくいつものようにダンスの練習を強制……コホン、頑張っていると、メイドの一人が伝えにきた。
慌てる私と裏腹にメイド達がテキパキと私の部屋にお茶の用意をして、気づけばいつの間にか二人っきりに。何故お世話がかりのメイドが誰もいないのかというと、つまり聞かれるとまずい話なんだろう、先日のお屋敷潜入の話とか……。
私はてっきり可愛い義妹(私のことよ!)の為に目をつぶってくれるものだと思っていたのに、何だか雲行きが怪しくなってきました。
「まぁ、大体のことは分かったわ。貴方の気持ちもわからないではないけれど、それは犯罪よ」
「……はい」
結局怪盗になった経緯や、何をやっていたかを全て暴露させられすっかり意気消沈。見逃してくれるって言ったのに。ぐすん。
「黙っててあげるとは言ったけど、見逃すとは言ってないわよ」
ビクッ エ、エスパーですか!? 魔法が使える私がいうのも変ですが、考えていたことを当てられて驚きが隠せません!
「顔を見ていればわかるわよ、どうせ見逃して貰えるとか思ってたんでしょ?」
「うぅ、図干しです……私牢屋に入れられちゃうんですか? もう甘いケーキも食べられないんですか? あぁアリス様の手作りケーキをせめて最後に食べたかったです」
せっかくお義母様約束してくださったのに、結局食べられないんだ。ぐすん。
「全く、大胆な事をするわりに中身はまだ子供なんだから」
「いいじゃないですか、まだ私は16歳です! 甘いものが大好きな年頃なんです」
「心配しなくても訴えたり捕まえたりはしないわよ、今日来たのは別の件よ」
「別の件、ですか?」
急に真面目な顔をしながらお義姉様が言ってこられます。
「貴方はロズワード商会……父親や義兄姉の事をどう思っているの?」
「嫌いですよ。できる事ならぶっ潰してやりたいぐらいに」
本当は隠すべき事なんだろうが、お義姉様も先日似たような事をおっしゃっていたので、大丈夫だろうと思い素直に言ってみたけど、これは私の本心。
「はっきり言うのね、なら後は私に任せなさい」
「えっ、任す?」
「つまりもう怪盗をするなって言ってるのよ」
「でも、それじゃ……」
「言ったでしょ、任せなさいって。クリスのおかげで探していた物が見つかったから、もうロズワード商会はお終いよ。今は裏付けを集めているからもう少し時間はかかるでしょうけどね」
「?」
探していた物というと、この間金庫に入っていた書類を思い出せるけど、あれってそんなに大事なものだったの?
「いいわね、もう怪盗なんて仕事は二度としちゃダメよ。もう少ししたら全てが終わるんだから、それまで大人しくしていなさい」
「あ、はい」
お義姉様の真剣な眼差しに私はただ返事をする事しか出来ませんでした。
***************
「クソッ」
まさかあの書類を盗まれるとは思っていなかった。
例の怪盗の事は警戒していたのだ、だから商会の金庫ではなく家の隠し金庫にしまって置いたというのに、まさか金庫ごと持って行かれるとは考えてもいなかった。
唯一の救いは盗まれたのが他国から取り寄せた最新式金庫だったと言うことだろう、あれは鍵で開錠するタイプではないので、例え手先の器用な鍵屋であろうと鍵穴がなければ開けることはできない。もちろんハンマーなどで破壊することは不可能だから、取り返すことさえ出来ればまだチャンスは残っている。
「ラフィエル、少しは落ち着け。怪盗如きにあの金庫は破れんよ。」
「すみません父上、しかしどうやって取り返せば……」
父上の言う通り今は焦っても仕方がない。重要なのはどうやって取り返すかだが、こちらは誰が犯人なのかさえ分からないのだ。
そもそも何であの金庫が狙われたのだ? 今まで盗まれたのは騙し取った金貨や宝石、それに娘達だ。彼奴にとって、他国とのやり取りを示した書類や武器のリストなんて盗んでもなんの得にも……いやまてよ、そういえばあの金庫の中にはあいつから奪った腕輪が……
「父上、何とかなるかもしれません」
「ほぉー、どうするつもりだ?」
「少し協力して頂きたいことが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます