第4話 お義母様って凄い人?

前言撤回、許してもらえませんでした!


ちっ、せっかく誤魔化せたと思ったのにフィル様は私に怪盗の仕事を辞めるように言ってきました。

まぁ当然ですね、伯爵夫人が怪盗なんてやってるのがバレてしまえばお家問題にも成りかねません。私も逆の立場なら止める立場になっているでしょう、だけど別に趣味や酔狂でやっているわけではないのです。私にだって引く事が出来ない一線ってものがあるんですよ。


私が頑として引かない事にとうとうフィル様はある条件を突きつけてきました。

まず危険な事は絶対にしない。怪盗以外で解決出来る時は伯爵家の名前を使ってでも構わないので解決を試みる。そしてどうしても怪盗にならなければならない時は必ずフィル様に報告する事。

この三つを最低の条件で渋々といった感じで提示されてきました。


「言っておくけど僕は決して認めた訳じゃないからね、出来ることなら二度と怪盗なんて仕事はやってほしくないんだ。」

「すみません、自分でも無理なことを言っていると思っています。だけど救える人がいるのにただ見ているだけと言うもは嫌なんです。」


「分かっているよ、分かっているから怒れないんだ。……あの子のお姉さんは無事に逃げられたんだね。」

「はい、朝には姉妹揃ってフランシスカ領に到着する予定です。」


「……そう、ありがとう。」ボソッ

「えっ?」

フィル様が何か言ったような気がしたけど声が小さくてよく聞き取れなかった。


「何でもないよ。そろそろ寝ようか、大分話込んじゃったしね。」

「あっ、はい。」

何だが最後はよく分からないまま締めくくられちゃったけど、時間はすでに深夜の3時を回っている。私は今日もお屋敷でレッスンやお勉強だけどフィル様はお仕事だからね、少しでもお休みになられた方がいいと思い素早く就寝の準備を整える。


私たちが使っているベット優に3人が横に並んで寝ることができるぐらいの大きなもの。いつものように私はフィル様と少し離れてベットに入るが、その距離は昨日までと違い少し近くなっていた。




「ふぁぁー」

朝食をとるため身支度を素早く済ませ食堂へと向かう道中ついつい欠伸が出てしまった。昨日、いや今日か、フィル様のと朝方まで話していたのですっかり寝不足になってしまい、先ほどから欠伸が止まらない。


「もう奥様、そんなはしたない処をフレディに見られたらまた叱られますよ。」

「仕方ないないじゃないフィオナ、殆ど寝てないんだから。」

ベットに入ったのは3時頃だけど眠れたのはもっと後だ、疲れているのに昨夜のキスの事が頭から離れず中々寝付けずにいなかった。結局ようやく眠れた頃ぐらいにフィオナに叩き起こされため殆ど寝れていないのだ。しかも女性の私はフィル様より身支度に時間がかかってしまうため1時間も早く起こされる、まったく朝っぱらから湯浴みやお化粧なんてしなくてもいいのに。



「あら、今日はまた眠たそうなお顔ね。」

「うっ、お、おはようございますお義母様。」

食堂へ向かう途中た白い子猫を抱いたお義母様と出会ってしまった。貴族社会の礼儀として食堂には先に女性が入り旦那様をお待ちすると言うのが決まっている。その中でも私が一番低い立場なのでなるべくお義母様より先に席に着くようにしていたのだが、今日は眠不足のせいかいつもより時間が遅くなってしまったようだ。


「みゃぁー。」

「シロもおはよう。」

私はお義母様に抱かれている子猫の頭を撫でながら挨拶をする。

この子はお義母様が昔から飼われているペットで、お義父様とご結婚される前からずっと一緒に育ってきたんだとか。

一緒に育ってきたのになぜまだ子猫? って思う人がいるかもしれませんが、何でもこの子は大きくならない種類らしく、ずっと子猫の姿のまま成長するんだとか。お金持ちのペット事情はよく分かりませんね、まぁ可愛いから気にしてませんが。


「昨夜は遅かったみたいね。」

私がシロの肉球をプニプニしているとお義母様が訪ねてこられた。


「あ、はい。ちょっとフィル様と遅くまでお話しをしていたので。」

「あら、随分中が良くなったみたいね。」

旦那様の事をフィル様と呼んだ事に敏感に反応されたのだろう、メイド達の話ではお義母様は昔社交界の華と呼ばれいた程の方だったらしい。礼儀もダンスも完璧で社交の交流にも精通なさっていたんだとか、私とは正反対の生活を送ってくられたこれぞご令嬢って人、今でも素敵なんだから若かった時はもっと綺麗だったんだろうなぁ。


「はい、今までゆっくりとお話しした事がなかったので新鮮でした。お陰でフィル様の事が色々分かって随分仲良くなりました。」

「そう、良かったわ。でもあまり危ない事をしてはダメよ、何か困った事があれば相談してね。」

「はい、ありがとうございます。」

お義母様はそう言い残すと一人食堂へと入って行かれた。

……あれ? 危ない事ってなんの事?






「パーティーですか?」

朝食を終え、口直しにお茶をいただいている時にフィル様が突然パーティーの話しを持ち出されてきた。


「えぇ、エンジウム公爵家主催のパーティーにお招きを頂いているんです。」

フィル様の話しでは昨日色々ありすぎてすっかり話すのを忘れていたんだとか。


今出てきたエンジウム公爵家とはその名の通り王家の血を引いているこの国の二大公爵家の一つ。なぜ伯爵家の私たちにそんなところから招待状が届くかというと、お義母様が元エンジウム公爵家の出身だから。

その話しは以前に聞かされていたのだが、どうも現実離れしすぎていてピンときていなかった。庶民育ちの私には伯爵家だけでも一杯一杯なのに、王族や王様なんて雲の上の存在すぎてよく分からないってのが本音だ。


「私もご一緒しなければならないのですよね?」

「招待されているのは僕とクレアだからね、流石に公爵様のお誘いは断れないんだよ。」

フィル様が言っているのは当然のこと事だろう、余程の理由がない限り自身より上級貴族様のお誘いを断るなんて出来やしない。

下手に断って目を付けられてしまえば今後のお付き合いに関わってきてしまう。


「私で大丈夫でしょうか? フィル様に何か恥をかかせてしまいそうで怖いんですが。」

貴族社会の事は殆ど知らないが、普通のご令嬢は丁度私ぐらいの年で社交界デビューをするんだとか。それがいきなり公爵家のパーティーで、しかも既に結婚済みってどれだけハードルが高いのよ。


「心配しなくても大丈夫よ、パーティーには私たちも参加するしお母様や兄様もとても優しいから。」

お義母様が私を安心させるように言ってくれるが、ダンスでフィル様の足を踏んだりって考えると怖くて動けなくなってしまう。


「そんな事よりフィルよ、クリスのドレスはどうするのだ?」

お義父様が話しの途中で私の衣装の話しを持ち出して来られた。衣装って言ってもお義母様からお下がりを頂いているので大丈夫ですよ?


「お義父様、ドレスならお義母様のを頂いておりますので。」

「あら、何を言っているの? あれは普段着る用のものよ、この際だから新しいドレスを新調なさい。」

私がドレスはあるから要らないと言えばお義母様が新しいドレスを作ればと言ってきた。


いやいや、伯爵家のお財布事情を知っていますので遠慮しますとお断りしたのですが、結局三対一で私の負け、フィル様の品位も関わってくるからと全員から説得され、最後にはドレスを作る事となってしまいました。


それから約二週間、ダンスのレッスンに礼儀作法、新しいドレス作りにとあっという間に二週間が過ぎ、とうとうやってきた私の社交界デビュー。

自分の事だけでも精一杯だと言うのにお義母様の話しでは義兄と義姉の夫妻も招待されているんだとか、なんだか悪い予感しかしないのは私だけだろうか……。

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