ポッド

 こうしている間にも永い永い時が逝ってしまいそうで怖かった。だから俺は、一人しりとりをすることにしたんだ。―――え~と、しりとり…り…り・り・りす・すいか・かめ・めだか・からす・すずめ・めしつかい・いぬ・ぬま・まき・きつね・ねこ・こうもり……り・り・り・…

 ゔ~ん。むなしい…。こんなん消極的なんはダメだ。よけい気が滅入る。

 それにしても永いなぁ。本当にアレはちゃんと作動してたんだろうか。べつに惑星くにに待っていてくれる人間がいるわけでもないが、こんなとこで独りぽっちで逝くのはカンベンだ、俺だってやっぱり……

 ボンヤリと外を見るとそんなに遠くないところに地球が見える。蒼い蒼い水の惑星。俺の故郷。

 連邦初の単独航行などという大見出しのプロジェクトのパイロットに選ばれ無事帰還できればイッキにヒーローになれたはずなのに、あのおんぼろシャトルのおかげで帰るに還れない放浪者になっちまった。一匹狼のジプシーなんてサマになんねーし、イッキで地獄へ落ちた気分だぜ。ここは地獄の一丁目とくらぁ。

 なんとかなんねーのかと思ってポッド専用マニュアルに手を伸ばす。本船のことはともかく、ポッドのことまで事細かに覚えてるわけじゃない。最低限の生命維持装置の使用法ぐらいが頭の隅っこのほうでチカチカ警告灯を点してる程度だ。

「~えーと、通信システムは…? 何!?ない?ったくだっせー機械だぜ。んぢゃ、推進システム……おーおー手動のみってか? 計算間違ったら死ぬってこったなぁ、バカにしてんなぁ。」

 相手もなく独りくっちゃべりながらマニュアルを開く俺の前方に見たこともないよーなシャトルが現れた。

 やっとSOSが届いたよーだな。

 喜々として緊急通信ランプボタンのスイッチを入れる。

 と、途端に電気が全部切れた。真っ暗闇の中、少し発光しているシャトルの機体が右から左へ移動していくのが見え……る!?

 おいっ、ちょっと待てっ。俺はどーなるんだ?電気のヒューズが飛んだんだぞ、おい、助けろっ、おいっ!!

 あせって叫んだせいで酸素が80%になっちまった。マジで危ねーぜ、これ。

 命張って地球の危機を救おうって男がどーしてこんな目に遭うんだ? まさか……まさかもう地球は……?

 呼吸が荒くなっていく。

 酸素量は70%にまで減っていた。この分じゃ1時間と保たねー。

 その間に、無情にもシャトルは俺をおいてどこかへ消えていった。

 このまま俺は逝くしかないのか? 狂いそうなほど永い永い時の中でゆるゆるとではなく、酸素のなくなる瞬間に怯えながら、呼吸困難に苦しみながら…? 遠く高い空で……?

 そんなことになるくらいなら、いっそのこと……俺は、

地球に船首を向け、ブースターを一気に開いた。

―――運がよければ、苦しまずに逝ける………


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