RECKLESS

 風が渦巻いていた。持ち上げられた木の葉が乾いた音を立てて灰色のアスファルトの上に落ちる。

 上目遣いに奴を見る。

 冷酷な瞳が見下ろしている。まるで爬虫類のそれのように、動かない感情のない眼。

 風がまた俺たちの間を通り抜けていった。奴はまだ黙って俺を見ている。舐めるように見つめる。獲物に襲いかかろうと時を待つ蛇のように。

 が押し寄せてくる。白く冷たい、背すじを凍らせるようなが。

 木の葉が風に吹かれるカサカサという乾いた音に混じって、ジャリッと靴のすべる音がした。

―――来る。

 反射的にポケットに手をつっこむ。奴は背広の内側に手をおいて、また黙って静かに歩を進めた。

 射程距離にはまだ遠い。もう少し近づいた時が勝負だ。恐らく、一瞬で決まるだろう。何万分の一のタイミング。それを逃したらおしまいだ。

 ジャリッ。

 時をおいて徐々に奴は近づいてくる。大柄な背に舞い上がった木の葉が止まって、俺もふくむように歩を進めた。

 奴の手が懐でピクッと動く。

 俺の手もポケットの中で緊張している。

 あと一歩、いや、半歩で俺の獲物の射程に入る。しかし、奴の獲物もそれくらいで射程となるだろう。不用意には進めない。汗が手を濡らしている。

―――あと半歩。額を流れる汗を拭うこともできない。目に汗が入りそうだ。くそっ、こんな時に限って。

 奴は涼しげな顔でこちらを見ている。

 そして、すっと懐から手を抜いた。A-MR50。射程は俺のMO-20より短い。どちらも指向性のレーザー銃だ。

 間をおかず、ポケットから獲物を取り出し奴に向ける。

―――奴の顔色がかわった。初めて動揺の表情を見せる。

 と、地を蹴って、奴は飛びかかってきた。手傷を負わされた猛獣のように。

 一瞬遅かった。

 ほとばしる緑の閃光ひかり

 もんどりうって奴は倒れた。

 うらめしそうに俺を見つめながら。それでも銃口を俺に向けて。

―――終わった。

 ため息一つついて奴に背を向ける。

 と、青い閃光ひかりが俺の胸を貫いた。

 奴の執念は一人逝くことを許さなかった。


 空では大きな楕円の衛星つきが、愚者おろかもの達を冷たく見据えていた。

 木枯らしが、男達の冷たくなった体に吹きつけている。

 やがて、白いものが、愚かな男達を残酷なまでに優しく包んでくれることだろう。

 生命の息吹は、―――まだ聞こえない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る