俺は確かに雨が好きだがカミサマになりたいと言った覚えは無い

朱音ヒロ

[Episode 00 神話の時代も雨は降る

…雨が降っている。頭上に広がる空は、心の中と同じで、黒く…暗く…

光もなくて…ただひたすら闇が続いている。

そんな闇が生まれた理由、それはわかりきっていた。

何もかも闇に包まれるその世界で、少年少女はただひたすら彷徨い続ける。

…闇の奥から一粒、二粒と光る何かが落ちてくる。それは希望の光か、はたまた絶望か。それは神にしか分からないだろう…

[Episode 00 神話の時代も雨は降る]


気がつくと見知らぬ場所に立っていた。どうやら村のようだが、まるで活気がない。人々は瘦せ細り、土地は干上がっていて見渡す限り荒野が続いていた。

こんなところで生活は到底出来そうになく、2.3日でこの村は滅びてしまうかもしれないと素人目でもそう感じた。

ふらふらと村の中を歩き回る。すれ違う人々は皆虚ろな目をしていて、まるで活気がない。中央の広場らしき場所も、人は中央で拝んでいる老人だけだった。

「神よ…我らに恵みの雨を…この村をお救いください…」

見ているだけで悲しくなるような願い事に、同情せずにはいられなかった。

「…天よ、彼らに恵みの雨を…。」 

老人の隣にそっと膝をつき、そっと天に願いを呟く。どうせ雨なんて降りはしない。そう思っていた。しかし…

「お…おお!なんということだ!雨じゃ!恵みの雨じゃあ!!」

どうしたことか、み空色していた頭上は次第に浅葱鼠へと変貌を遂げ、大地を雨垂れが打ち付ける音が響き出した。


「神じゃ…神がご降臨なさったんじゃ!!」


「…は?」


老人の一言を皮切りに、どこからともなく人が現れ、祭りのような大騒ぎになった。


「いや、俺は神様では…」

気がつくと担ぎ上げられており、玉座のような所に座らされた。何時の間にか用意された豪華なご馳走に囲まれ、隣には村長の娘が座っていた。自分より相当歳下だろうその子は生贄…なのだろうか、勝手に妹にされていた。そんな中、村人たちに拝まれ続ける。


「ああ神様…どうかこの村にさらなる恵みの雨を…」


そうだ、これは悪い夢だ。そうに違いない。寝ればきっと元通りになるはずだ。そう思い横になって意識を手放す。気がつくと外から鳥の声と聞きたくもない声が聞こえてきた。あの少女の声だ。それに気づき全てを悟った俺は思わず叫んでしまった。


「確かに雨は好きだけど、神様になりたいとは言ってねぇ!!」

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俺は確かに雨が好きだがカミサマになりたいと言った覚えは無い 朱音ヒロ @aberranthiro

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