幕間:始まりと終わりと(前編)
創世記。
かつて空に穴が空き、異世界と繋がってしまった日を人々はいつしかそう呼ぶようになった。
今でもこの空には穴はぽっかりと空いたままで、閉じる気配は微塵にも感じることは出来ない。
また穴の中から我々の理解の外にある『何か』が落ちてくるのでは、と怯える日々――。
は、とうの昔に終わっていた。
今ではその逆、その穴の中に入り込み『冒険』をしに行くほどにまでに、人々は受け入れていた。
創世記が始まった時に起きた一番最初の事件――スライムの出現――に世界が慌てふためいたのもほんの僅かな期間であり、打開策も完全に発見された後は誰もスライムを怖がることはなくなった。
その後も穴から様々な異形が落ちてくることはあったが、その都度対策が練られていき、世界は人類が想像していたよりも遥かに早いスピードで新しい世界の形に順応していった。
もちろん、その間に決して少ないとはいえない犠牲もあった。
しかし当然の犠牲でもあった。
その犠牲があったからこそ、世界は、人類はここまで早く『魔物』と渡り合うことができたのだ。
その創世記の黎明期に活躍した7人の人間がいた。
国も、言語も、思想も、何もかもが違っていたが、魔物の出現という事態に対して誰よりも迅速に、誰よりも効率的に働いてくれていた。
穴から落ちてきた魔物の討伐はもちろん、討伐の際に得た情報の全てを全世界に発信してくれていた。
しかし、国という観点からでは、彼らの存在は決していいものではなかった。
魔物の情報一つとってもそれは世界にとって莫大な価値を持つものであり、ひいてはその魔物が落ちてくる穴は、宝の山そのものでもあった。
どこよりも先に情報を集め独占し、各国よりも優位な立場を築く。
そんな臭い
どうして誰よりも先に魔物の出現に気づくことができていたのか、それは彼らが現れて数十年経った今でも謎に包まれており、その謎が謎のままであったからこそ彼らは人類から『英雄』や『勇者』として讃えられるようになったのだ。
そして、彼らの伝説はある日を持って終幕を迎えることになる。
彼らのおかげにより世界は魔物からの脅威に怯えることがなくなってしばらく経った日、世界は再び大きな転機を迎えることになった。
今まで彼らがしてきたことは『討伐』であった。
魔物から世界を守ることはできても、その元凶を断つことは達成されておらず彼らがいなくなってしまった後のことを考える始める人も出てきて始めていた。
当時は彼らしか魔物を討伐することができる者はおらず、他のものはせいぜい上から落ちてきたスライム一匹を家族総出で倒せるほどであった。
最下層に位置する魔物であるスライムですら、当時の人類には手を焼いていたのだ。
いくら倒し方が分かっているとはいえども、いざ実際に対面すると全てに恐怖が勝ってしまう。
日々の暮らしの中で何処かの誰かがスライムを退治したという話を聞くと自分にでもできると錯覚してしまうが、いざ自分の目の前に現れると足がすくんで動けなかったというのも、珍しい話ではなかった。
そして仮にも『生きている』のだ。
自分以外の生き物を、明確な殺意を抱いて殺すという行為はやろうとしても、難しいものだった。
その辺を飛んでいる虫や害虫を殺すのも、畑を荒らそうとする害獣を追い払うのとも訳が違う。
自分が殺されないために、相手を殺す。
ともすればそれは、自分の人間性を地の底にまで堕とす、吐き気を催す行為に等しかった。
そういった人々の事情を知らない彼らでもなかった。
出てきた魔物を討伐しているだけではいずれ間に合わなくなる日も来てしまう。
考えていることは彼らも同じであった。
だからこそ彼らは決断をせざるを得なかった。
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