Lv9999?チート級の能力?そんなズルするガキには異世界をクリエイティブ化して荒らしてますが、なにか?

小麦猫

ガキガキ言ってっと、『お前の方がガキじゃね』って言われそうで少し怖い説。

「ザァー、ザァー」

 機械が壊れたような音。今はそれがどことなく恋しい。俺はただ娘に、「お父さん、カッコいいね」の一言を言って欲しかっただけで始めた仕事。それが、俺の日常を蝕んでいる。


「何で、俺が!こんな!オッサンやろうに!」

「オッサンやろうで悪かったな、ガキんちょ」

「俺がお前なんかに負けるはずがない!レベルはカンストした!ステータスだって……」

「そんなのに頼ってるからガキんちょなんだろ。俺が言えたことじゃないがな」

 言葉を続けるガキに、トドメの一撃。「ドゴーーン」と低く、鈍い音は耳障りにしかならない。五分も俺を手こずわせやがって。


「先輩ーー!」

俺を呼ぶ声。やっと後輩が帰って来たようだ。

「こらー、何で無線を壊したんですか!」

「うるさかった」

「意味不明です先輩、次の仕事が来てるんですよ。鉱山鉄道にて事件が発生したようです」

「今、何時だぁ?」

「五時ですが、それより、危機が迫ってるんです。時間なんか確認してどうするんですか!」

「お前に次の仕事を一任する、頑張れ」

「いやいや、冗談ですよね?何で帰ろうとしてんすか!待って下さいよーー!」

 後輩の言う事を無視して、帰り道へ足を踏み出す。

「大切な約束があるんだ」

 そう言って、そそくさと俺は娘との日常に帰った。娘と過ごす、ささやかなに日常に。


「ただいまーー」

「お父さん、遅い!」

 家に帰った瞬間、怒られる俺。なんかスゲー恥ずかしい。

「一緒に遊びに行く約束、ぜぇーたい忘れていたでしょ。もう過ぎてるよ、時間」

「ごめん、ごめん。忘れる訳がないだろ、結花との大事な約束なんだから」

「そーいうこと言うんだったら、今度は遅れないこと、分かった?」

「はいはい」

 返事が急激に弱くなる俺に対して、呆れたような、諦めたような、なんとも言えない顔をしていた。今日の結花も可愛らしい。


 用意をして外に出ると、空を真っ暗に染めるほどの戦闘機。如何にも戦争が始りそうな雰囲気だ。「アイツラめ」と娘に聞こえない声で不満を吐き出した。

「ねぇ、お父さん?」

 娘が震えた声で、カタゴトでささやく。

「仕事、ちゃんとしてないでしょ」

「いや……してるよ」

「また定時だからって帰ってきたんでしょ。お父さんは私だけのものじゃないんだから、ヒーローなんだから、こんな所にいちゃいけないの。止めに行ってきて、お父さん」

「結花、俺は……」

「ここで行かなかったら、恨むからね」

 その一言で俺に逃げ場は失くなった。

 俺はバイクを懐から取り出し、エンジンをかけた。エンジン音とともに「チッ」と舌打ちを混ぜる。もちろん娘に対してじゃない、この仕事に、だ。

 何で俺、こんな仕事選んだんだ。娘と居られる時間は取られるし、恨まれるし、得した覚えがない。『もうこりごりなんだ、辞めたい』と何度仲間に言ったか覚えてないほどこの仕事を憎んでいる。辞めたいのにやめれないなんて、世の中って理不尽。


「ほんと……過保護なんだから。この世界を守るっていう大事な仕事あるんだよ」

 エンジン音で聞こえないくらいか細い声は、怒る俺に届いてはくれなかった。いや、届かせなかったの方が、正しいのかも。


「何だよ、これは……」

 目の前の光景にインパクトがあり過ぎて、思わず言葉を詰まらせた。街は黒く変色し、家はガラクタのように粉々で、ドロドロとした液体に飲み込まれていた。たぶん、この流れる液体の源流に親玉がいるのだろう。

 バイクを懐に入れ、俺は上空をつかみ駆け上がる。「見えた、あそこにいる」相手の場所を確認し、俺は懐から隕石を取り出した。

 一応、隕石を落とすと連絡しておいたから、大丈夫だろうと身勝手な判断をして、俺は行動に移した。


 見に行ってみるとさっきまであった山がなかった。いや、消えていたという表現の方が合っている。相変わらず、威力がぶっ飛びすぎだ。

「先輩が……やったんですか?」

「あぁ、そうだ」

「さっきも、驚愕しましたけど、これは次元が違いすぎです!もし連絡が遅かったら、皆まとめて死んでましたからね!」

「俺の知ったことじゃねぇ、死んだら死んだでそれまでの男だったってことだ、お前は」

「誰かこの男を通報してくれーー!」

 悲痛で、怒りのこもった叫びは誰にも届かない。なんとも悲しいヤツだ。


「で、敵はどうなった?」

「こんな破壊力で生きていけるわけ……少し、待って下さい。あれって!」

「ハァ、ハァ、君が!やったのか!」

 あの威力を食らってまだ立てるのか。

「そうだけど、なにか?」

「何をしているだ、僕はこの世界を嘘がない、正しいものに変える仕事をしている。邪魔をする必要がどこにある?ないだろ?」

「俺は頼まれたことをしただけだ」

「薄っぺらい、中身がない。それは正義とは呼べないよ、勘違い君。上からの仕事をするだけで良いのかい君は。今の時代、物事を受信するだけでなく、発信することも必要なんだ。間違っている世界なら、おかしいと発信しなくてはならない。それを僕は担っているんだよ」

「この世界に満足してる。だから、お前は間違っている。他は知らない」

「それはただの自己満足というものだ。何処に正当性があるのか僕にはわからない。」

「なあに意味不明なことを話してるですか!鉱山を破壊し、街を壊してるんですよ。正当性なんて、欠片もないじゃないですか!」

「君は少し、黙っておこうか。この僕を怒らせないように、ね」

 殺気を垣間見せる奇怪。この男の言葉は重く、冷たい。後輩は次の言葉が出なさそうだ。

「この世界は間違っていることを知らないとは……なんとも残念なやつらだ。お前らがいるから、妹が死んでしまう世の中を肯定してしまう。この力に目覚めたのは、変化を求める神様のお告げ。だから、私は……」

「うるさい」

 長々と話す男に、木の苗で腹を打つ。

「要するに、復讐の理由を探してるだけだろ、お前。そんなもん、笑顔になるやつなんて一人もいやしねぇ。」

 男に反論は無い、いや、出来なかった。核心を突かれたのだ。

「両親は報われると思うか?むしろ息子が犯罪者になったことで悲しむだろ、ガキが。お前だって、もし世界を滅ぼせたとして、スキッリするのか?……お前の気持ちは変わらないんじゃないのか。」

 罵倒をし続ける俺に横槍を入れたのは後輩だった。

「あの……この人、気絶していると思いますが」

「バカ言うな、意識を保てるほどの力で殴ってるよ」

 だが、男は微動だにしない。力が入らないというぐあいだ。

「お前がどう更生するかは知らない、自分には何ができるかを考えろ。」

 この言葉を最後に、敵とお別れをした。

「こいつを任せた。今は何もしないと思うが」

 思う、という言葉を加えたが、俺は信じていた。あいつの頬を流れる雫は嘘でないと直感したのだから。

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