5 はじめての生き物?

 ぽかぽか陽気に温められて、私はゆっくり目を覚ます。

 おおきな欠伸と一緒にぐーっと背伸びをするのが気持ちいい。

 あ゛ーッ! 動けるっていいなぁー。

 っと幸せを噛み締めながら、再びうとうとむにゃむにゃと……


 ……二度寝しとる場合かーッ!?


 自分で突っ込みを入れながら、ぐおんっ! っと飛び起きる。

 腹筋から座るまでのコンボは、もはや条件反射で出来るレベルに達していたようだ。

 兎にも角にも、まずは自分の無事をチェックだ。

 両手、両足、ごんぶと尻尾、ぽっこりおなかに、まないたお胸。

 しっかり動くし、どこか怪我してる様子もない。

 体調は疲れもしっかり取れてスッキリ爽快。

 異常があるとしたら空腹ぐらいかな。


 どうやら外敵に襲われずに三日目を迎えることができたっぽい。

 ほっと一息つきながら、昨日から考えていた一つの仮説を思い出す。


 ここって、やっぱり安全地帯なのかな?


 結界的な何かが働いていて、外敵が近寄ってこないようになってるとか?

 ほら、ダンジョンなんかでよくある中間地点のテント張って全回復できる休憩スペースとか、ボス戦前の扉前で回復とかセーブができる石碑やら泉やらがあったりとかする小部屋みたいな。

 三日もいるのに害虫一匹見たことない私としては、そんなドラゴンでファンタジー的な想像してしまってもおかしくないと思う。

 この森に生き物のがいないという可能性は……たぶん無い。

 だって、鳥っぽい甲高い声や、獣の遠吠えは時折聞こえているし。

 そのたびにビクッ! っとしていたわけなんだけど……結局何事もおこらなかった。

 ここは何らかの理由で安地だから襲われる心配はない……つまり卵を産むには最適な場所だったってことかな。

 

 ……いやいやいや、だからって卵を放置してるのはおかしいでしょ。

 いくら安地でも普通は親だの仲間だのが守るもんじゃないの?

 生まれていきなり放置プレイかまされたうえに、刷り込みすらできない環境てどーゆーことよ!!?

 育児放棄ってレベルじゃないっしょ!?

 責任とれないなら産むんじゃねぇぇぇええええ!!!! 


 はぁ……はぁ……


 ごめん、色々不満が爆発してつい咆哮してしまった。

 結構ストレスが溜まってたみたい……けどなんかちょっとスッキリ。


 まぁとにかく、それぐらい私以外の生き物を見てないっていうことだ。

 だから当然私のまわりにある泥の地面は、私が這いずり回った足跡しかないはずで……


 ………………ナニコレ?


 地面にくっきり残る細い足跡のようなモノにはまったく見覚えがないのは当然なのだ。

 全体的な形は人間の裸足のように見えなくはないけれど、なんか五本の指のような部分が細長い。

 それがやや内また気味に並んで二つ。

 私の寝転んだ跡の真横に残っていた。


 ヤダナニコレコワイッ!?


 慌ててキョロキョロ周囲を見渡す。

 けれど辺りはいつも通りで変わったような所は見られない。

 近くに隠れ潜んでいるのか、はたまたもう何処かへ行ってしまったのか。

 昨日寝る前にはたぶん無かったはず……というか、私の動いた後の上に残されてるから寝た後なのは間違いないらしい。


 これでここの安地説が崩れてしまった……。

 い、いや……まだ味方だって可能性はある。


 だって、寝てる私の真横に立っていたっぽいんだけど……寝込みを襲われた感じはない。

 物理的なダメージはないし、性的な悪戯をされた様子もない。

 でも真横に立ってたようにあるってことは、少なくとも私には気づいてるはず。

 何にもせずじーーーーーっと観察してたってこと?


 それはそれで気持ち悪いんですけどっ!?


 全裸だけど私今幼女だよ!? しかも種族もよくわかんないモン娘だよ!!?

 そりゃ人の性癖をとやかくと言えた義理はないけどさー……ここ森の中だよ!?

 YESロリータNOタッチの精神はこんな森の中にも息づいてるの!?

 紳士なのは良いことかもしれないけど、横でハァハァされるのは嫌すぎるっ!!

 森の妖精ならガチムチなモンスターのとこホイホイいけよーー!

 てか、警察は何やってんだー!? 森だからいない!? いやいるでしょ!! 



 タスケテー天狗ポリスー! 変態紳士がイルヨー!!




 ……………………ハイ。


 一通りアホな言動をしているうちに、頭が冷えてきた。

 落ち着きを取り戻すために大きく深呼吸……すぅ……ぱぁ~…… 

 よくよく観察しなくても、当然足跡は私の横だけじゃなかった。

 こっちへ真っ直ぐ歩いてくるような跡と、森へ戻っていくような跡がV字続きで残されている。


 こっちへ来いって誘ってるみたいだなぁコレ。


 ……御飯のコトもあるし、どのみち今日はちょっと森の方へ行ってみようかと思ってたけど。

 じーーっと足跡の先の森を見る。

 いくら目が良くなったといってもそんな奥の方までは見えない。

 暗さも木々の深さも、どの方向へ行ってもあんまり変わらないはずだけど、足跡がある分不気味に見える。

 けれど、こっちへ進めば少なくとも足跡の生き物に会えるかもしれない。

 敵か味方かわからないけれど、寝込みを襲われなかったんだからいろんな意味で草食系の可能性は高い。

 できれば仲間ならありがたいけれど……自分の足跡とくらべて全然形が違うしなぁ。


 うーん……………………よしっ!


 目をとじてしばらく考えたあと、覚悟を決めてうなずく。

 ヨツンヴァインフォームになった私はぐっと足跡の方向を睨みつけて。


 くるっと反転すると反対方向へ進むことにした。

 私のモットーは君子危うきに近寄らず……ってことにしておこう。


 ビ、ビビったわけじゃないんだからねっ!!?

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