3 はじめての飲み物

 あーたーらしいー朝がきた。

 きぼーおのーあさーーーだーーー……


 希望でお腹がふくれたらいいのになーちくしょう。


 ぐぅぅーっという胃袋の警告音が、寝起きの頭をしっかり覚醒させてくれる。

 きのうは身体を動かすことばっかり考えてたおかげで、ごはんは食べてないし水も飲んでない。

 生後初日に断食生活……よく生きてるな私。

 弱っているかといえばそういうこともなさそうで、むしろ体力が回復したようなすがすがしい気分だ。

 お腹の中以外は。


 むくりと腹筋をつかって身体を起こす。

 失敗しまくったおかげで、座るまでは難なくできるようになった。

 ……きのうは何とも思わなかったけど、生まれてすぐなのにこんだけ動けるってのは結構スゴイことなんじゃない?

 あーでも、野生だとそれが普通なのかな。

 生まれてすぐ立って移動できないと襲われて食べられるみたいだし……

 あれ? それだと生まれて一日まともに動けなかった私はダメなんじゃね?


 …………まぁ襲われてないからオッケーってことで。うん。


 それより今は何か飲み食いしないと。

 襲われるより前に餓死とかシャレになんない。

 水っぽいものは近くにあるにはあるけど……

 べちょっと地面を触る。

 さすがに泥は食えないし飲めない。

 昨日は多少水溜りみたくなってたけど、一日たったらさすがにもう泥しかないね。

 おかげで地面が柔らかくなって、なんかひんやりもしてなんか寝心地は悪くなかった。

 前世の私だったら間違いなく風邪 → 肺炎 → 入院ルートだったが、今の身体はすこぶる健康だ。

 全身泥まみれではあるけども。

 ……泥パックで鱗がスベッスベになるという効果を期待しておこう。

 しかし、地面が濡れてたってことはここに水があったということで。

 まぁ、私が生まれる前にでも雨でも降ってたんだろう。

 けど、よく回りを見てみると地面がしけっている処は私の周辺だけ。

 空が見えているとはいえ、けっこう木々が茂っている。

 私の回りだけ速乾するのはなんか変だ。

 キョロキョロ見回していると、目に入ったのは隣に鎮座する黒い塊。

 私が爆誕した卵の殻。

 上半分は、生まれ出たときにバラバラになってしまったのかで無かったが、下半分がヒビだらけのまま原型を保っている。

 割れてない表面はよく研磨された真っ黒な宝石みたいで綺麗だ。

 触ってみるとツルツルしていて、よく見れば自分が写りこむぐらい光を反射していた。


 おぉー。


 私も元は人間の女子。

 今も人間やめたとはいえ雌のはず。

 光ものは嫌いじゃない、むしろ好きだ。

 綺麗な卵面に吸い込まれるように顔を近づけて行って……まぁ見事にバランスを崩しましたとさ。

 卵の壁に顔面ダイブである。

 ペキペキベキッ! と変な音がして割れる壁面。

 そして中から……ザバーッ! っと水が…ボガボガボッ!


 ぶへあっ!! み、水!?


 両手を押し上げて上半身を急浮上。

 昨日ヨツンヴァインの練習をしたおかげでスムーズに脱出できた。

 ぷるぷると犬みたいに首を振る。

 目を開けた先に見えるのは卵の中。

 外側とは対照的に中は真っ白で、うっすら虹色にキラキラ輝いている。


 おぉぉーー! ちょーキレー!


 目を輝かせて感動に浸っていると、空気の読まない腹の虫が全力で現実に引き戻してくれる。


 そうだよ、水。水がある!?


 自分が割ったせいでだいぶと流れ出てしまったが、底にはまだ十分に残っている。

 これだけあればしばらくは持ちそうだ。

 泥水なんかとは違う、きれいな水。

 そこにはくっきりはっきり自分が写りこんでいた。


 逆さカマボコ型の漫画でしかみたことないような大きな目。

 瞳の色は真っ黒で白目の部分が殆どみえないぐらい大きい。

 瞳孔は縦に割れているようで、今は昼間の猫みたい。

 眉毛は鼻筋よりにちょびっとマロ眉。

 鼻はない……と思うぐらい、よくよく見ないとわからないほど低い。

 口はへの字にひん曲がり、開けるとそりゃもう人食いザメも真っ青なレベルの鋭い牙がズラーリ。

 頬や目元にある黒い小さなモノは…鱗だろう。

 顔全体にビッシリはないので、人間に見えなくも……ない……たぶん。

 全体的にに整ってはいる気がするから、美人……てか可愛い幼女の部類にははいれると思いたい。

 まぁそれはともかく……


 元の私の原型ないなー。


 まぁ別に元の顔に未練があるわけでもないけど、それでも長年付き合ってきた顔だ。

 ここまで全力で違うと慣れるまで違和感を感じそうだ。

 そもそも、人間じゃない時点でものっすごい違和感あるんだけど……

 そんな顔のパーツの中、ひときわ目を引いたのが頭の上にそびえ立つ角……っていうかトサカかなこれ?

 綺麗にセンターわけになった銀髪の真ん中から、ニョッキリと黄金色のモヒカンみたく生えている。

 しかもこれ小さなひし形が連なっているみたいになっていて、生え際が一番小さくて、頭頂部が一番大きいっぽい。

 そのまま後頭部へと連なってるんだろう……どっかの特撮怪獣王みたいなもんかな?

 他にも色々突っ込みたいところはあるけども、お腹の虫が 「はやく水飲めよ!!!」 と怒号を上げるので、考えるのをやめて水たまりへ顔をつける。


 ごくごくごく……っ!!?


 ぷはぁっ!! なんだこれッ!? ンマイなぁぁあぁぁーーッ!!


 ほんとびっくりするぐらい美味しい!

 なんせ味があった。

 ほどよく甘くてほんのり酸っぱい。

 しかも、少しとろみのある水で喉ごしがとってもいい。

 あれ、飲むヨーグルトみたい。

 夢中になってごくごく飲む。


 ごくごくごくごくごく………ぷはー! ゥンまああーーーい!!


 気が付いたらお腹いっぱいになっていた。

 そして……卵の中の水はきれいさっぱりなくなっていた。


 ……全部のんだらダメじゃね!?


 ひと時の満腹感を感じながら、……食料事情が振り出しにもどったことに後悔した。

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