2 はじめての運動

 目が覚めると空に星が浮かんでいた。

 どれくらい寝てたんだろ……さすがに一日は立ってないと思うけど。

 少しぼーっとしてから、何気なく自分の身体を確認する。

 両手両足は真っ黒鱗に鉤爪ギラリ。

 尻尾ふりふりあと全裸。

 

 うん。夢じゃないね。


 間違いなくモンむすに転生してしまったようだ。

 私の知ってる現代には空想世界にしかいない生き物なのでココは異世界だろう。


 ごめんよ親族そしてご友人の皆々さま。

 動ける身体で生まれ変われたのはいいけど異世界だったわ。

 異世界じゃなくても、こんな姿見られたら信用うんぬんの前に討伐なり捕獲なりされちゃうかもだけど……

 でも、ヲタク道まっしぐらだったお兄ぃ達なら、喜んでくれそうかな?

 そーゆー系の本もいっぱいもってたし。

 あー……でも上のお兄ぃは獣っ娘ケモナーで、下のお兄ぃも悪魔娘サマナーだったからどうだろ?

 趣味の違いでリアルファイトに突入したことが何回もあるくらいだし……

 バカなお兄ぃ達だよねーホント。


 え?私?

 私は竜男子ドララーだよ?

 けど別に、自分がなりたかったわけじゃないからなぁ。

 豪快なゴリマッチョとかダンディな初老の紳士なんかがいてくれたら嬉しいけども。

 ……って思考が変な方向に進んでるし……全部変態なお兄ぃ達が悪いってことにしておこう。うん。


 ところで私の種族は何になるんだろ?

 蜥蜴人リザードマンあたりかな?

 竜人ドラゴニュートの方が個人的には上位種っぽくて好きだけど。

 確認しようにもどうしたらいいものやら。

 卵を産んだ私の親は見当たらないし、同種族どころか他の生き物も近くにいる気配なし。

 熟読した異世界主人公達みたいにステータスとか見れないかなと思って、色々試してみたけど何にもでない。

 チート的な能力でもあるのかと、思いつく限り、囁いたり詠唱してみたり祈ったり念じてみたりしてもダメ。

 というかそもそも喋れてるのかも怪しい。

 現実で聞かれたら恥ずかしい厨二レベルの詠唱とかもしてみたけど……ガオガオ、グルグル、ギャオー! としか耳に入ってこないんだけど……

 唯一のわかった利点といえば、夜でもよく見えるということ。

 昼間と大差ないくらい回りが良く見える。

 けどちゃんと暗いっていうのは頭の中でわかってて……不思議な感じだ。


 …………まぁ、今わからんことはとりあえずおいておこう。

 け、決して現実逃避したわけではないんだからね!!


 少なからず睡眠をとれたおかげで、初めて動かしまくった体力は回復してる……はず。

 じっと寝てても仕方ないので、この場所から移動することにした。

 お腹もすいてきたし……誰もいないんじゃ水も食料も自分で探さないといけないし。

 腹筋に力を入れて身体をおこ……そうとしてバランスを崩しコケる。

 

 …………さっき起きれたのに?


 もう一度チャレンジ。

 今度は尻尾を気にするように腹筋。

 ……見事に横転。

 そのあと2、3度チャレンジしてみるが右に左に、勢いつけすぎて一回転したりと器用にコケる。


 このやろう……!


 ムキになって何度も何度も繰り返していればほらごらん、できましたよっ。

 さすが私。

 だいぶ泥んこまみれになったけどねっ!

 座るだけでだいぶ疲れた気がするけど本番はここから。

 私、大地に立つ。

 記念すべき伝説の始まりはここからなのだ。

 膝を立て、しっかり地面に足の裏をくっつけて……いざっ。

 ブッピガ……ベシャっ!


 ………………う~~ううう、あんまりだ……

 あァァァんまりだァァアAHYYYAHYYYAHYWHOOOOOOOHHHHHHHH!!

 まぁぁーーーたさいしょっからじゃんかぁぁぁぁよぉぉぉぉぉ!!!

 

 ゴロゴロ転がってジタバタ暴れてギャーギャー泣きじゃくって……ピタリとクールダウン。

 とりあえず色々とスッキリした。

 なんか無駄な体力をつかった気もするけど、致し方なし。

 再チャレンジしようとしたところでふと気が付いた。

 

 うつ伏せからの方が楽じゃない?


 起き上がるシーンってたしかうつ伏せから立ってることのほうが多かった気がする。

 そもそも赤ちゃんは、匍匐前進、ハイハイ、二足歩行って順々に成長していったはず。

 私だって卵から生まれたての赤ちゃんだ。

 中身は20歳だけど、生まれて一度も歩いたことがないし、知識はあっても経験は赤ちゃんと同じだ。

 何事も基本から。

 失敗するだけ失敗してようやくソコに行きついて、ゴロリンとうつ伏せに寝そべる。

 転がるのはもう得意技だ。

 あんだけ暴れて泥だらけになってるのだ。

 いまさら顔にドロが跳ねようが気にはし……うべべっ! 口にはいったしっ!!

 猫みたいに顔をこすってからいざチャレンジ。

 まずはズリズリ匍匐前進だ。

 両手で身体をひっぱるように、足は押し蹴るように動かすと……ズリズリズリズリ……

 進んだぁぁぁぁ!

 転がる以外の移動方法にちょっとうれしくなって、調子にのってズリズリ移動。

 お腹がこすれてちょっとこちょばいけれど、地面を泳いでるみたいでなんかたのしい!

 ズリズリズリズリ…………ふぅ…賢者タイム。

 動きすぎて疲れただけで決して他意はない。

 と、とりあえず動くことはできたから、次の段階へ進むようにしよう。

 次はハイハイだ。


 たしか……こうやって……


 地面に手をついて腕を伸ばす。

 両腕に自分の身体の重みを感じながら、上半身が浮上していく。

 片側に力を入れ過ぎて途中で手が滑って顔面ダイブしてしまったけれど、腹筋よりもだいぶと分かりやすい。

 腕の広げ具合や左右の力加減を均等にしながら再チャレンジ……

 よし。上手くいった!

 上半身が持ち上がって視線が高くなったことに少なからず高揚しながら、足の方も膝を曲げてお尻を上げる。

 あらかじめ上半身が持ち上がっていたからか、足の方はすんなり動いて……


 完成だ! ヨツンヴァイン!!


 ギャオーーン! と空に向かって吠えてみた。

 手足はプルプル震えているけど、これはけっして私の身体が重いからじゃないよ!

 ただ、バランスを取るのが慣れてないのと、あとなんか疲れでしびれてるっていうだけなんだからね!

 ……いってる側から辛くなってきた。

 べちょっと、大の字に地面につぶれると同時にどっと押し寄せてくる疲れ。

 そのまま瞼が重くのしかかってきたので……私は睡魔に逆らわず従うことにした。


 ……明日から本気出す……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る