1 はじめての転生
顔面が痛い。
暗闇から引っ張り出された私は、思いっきり硬いものに顔面ダイブしていた。
リングでノックアウトされたスモーレスラーみたいにぶっ倒れているように見えるかもしれない。
ちくしょう……暗闇め……
口を歪めると、水気といっしょにツブツブしたものが口の中に侵入してくる。
思わず噛んだらなんかジャリジャリして硬いし……なんだこれ!?
もごもご口を動かしながら、それなりに動かせる首を横に向ける。
まぶしい光と一緒に視界に飛び込んできたのは草木。
茶色い地面に、なんだか濡れてドロドロになった地面……ってさっき口の中に入ったのは泥かこれ!?
うべっ!べぺっぺぺぺ…って倒れてるから吐きだしにく……ってか余計入ってくるっべべぇべっ!!
口を開けるたびに水分と一緒に入りこんでくる泥に悪戦苦闘していたけど……キリがないのでひとまずあきらめた。
気持ち悪いけどとりあえずは我慢してやる。
溺れないようにしっかり呼吸を確保しながら、いったい何がどうなったのか考えをまとめてみる。
・死んだ。
・暗いところで漂ってた。
・何にもないし暇だなーと思った。
・身体が動いた。
・驚いて暴れまくった。
・楽しくなってきた。
・疲れた。
・なんかヒビだらけになっていた。
・吸い込まれた。
・顔面ダイブ。
・今ここ。
OK、私は何も悪くないな。
結論が出たところでどうするかな……
泥があるってことは、寝転んでるのは地面に違いない。
てことは天国か? それとも地獄?
木々は青々と茂ってるから、地獄って色にはみえないけど……よくわかんない。
とりあえず、泥の地面の上でずっとマケボノ状態は正直嫌なんだけど……さてさて。
周辺に人の気配はない。
ということは私を起こしてくれる人はいないということか。
草木のガサガサと揺れる音と、怪鳥みたいな声は聞こえるけど……怪鳥がなんとかしてくれるとは思えない。
むしろこのまま倒れてたら食われそうだし。
うーむ……暗闇の中だと動けたけど……ここでも動けるのかな?
とりあえず身体を起こす努力をしてみようと思う。
……えっと? この体制から身体を起こすにはまず……お腹と地面に挟まれてる腕を引っこ抜かないといけないのか?
死ぬ前は多少動かせたとはいえ、電動車椅子のレバーを傾けたり、パソコンのキーボードを一つずつゆっくり押したりできたぐらいだ。
引っ張り出す力なんて当然なかった。
始めての重労働にドキドキしながら、両腕に力を込めて……うえぇあ!!?
右腕に力を込めすぎた!?
仰向けになったとおもったら、勢いをつけすぎてさらに回転、回転回転回転ゴロゴロゴロゴロっ……ごぉっふ!!…ぅぐ…ぅ…
み、幹がいいボディブローを決めてくれやがったのぜ……
ぶつかって止まったのはいい…けど……痛い。
ゴロンと仰向けになって深呼吸。
都会とは違う新鮮できれいな空気が肺の中に入ってきて、ダメージを少しは和らげてくれた。
とりあえず……動いた。動かせたっ!
ということは足も!! ……バタ足のように動かせば、黒い足がバタバタと上下に動く!
膝も曲がるし足首も回せるっ!
真っ黒な両腕を空へ掲げれば、肩も動いて肘も曲がるっ!
身体をくねらせれば腰も動いてごろりと一回転!
お尻に力を入れれば尻尾も元気にビチビチビチビチ!
うおー!!やったどーーーー!!動かせる身体どわぁぁぁああっ!!
まるで地面で子供がダダをこねてるみたいに両手両足腰首尻尾を振り回しながら喜びに打ち震える。
バタバタ! ベシベシ! クネクネ! キョロキョロ! ビチビチ!!
………ん?
少し興奮が冷めたところで謎の違和感。
なんだろう……すごくイヤな予感がする。
足を上げる、バタバタバタ!
腕を動かす、ベシベシベシ!
腰をひねる、クネクネクネ!
首を傾ける、キョロキョロキョロ!
尻尾が跳ねる、ビチビチビチ………
し、尻尾ぉぉぉぉぉぉおおおおお!!?
ガバァッ! っと初めてするとは思えないすばらしい腹筋で身体を起こすと、太くて立派な黒い尻尾が飛び出していた。
尻尾の上に座っているような体勢で、両足の間からビチビチ動く太くて真っ黒な尻尾。
この状態でみると卑猥だなぁ……じゃなくてっ!!
太い部分だと自分の太ももぐらいありそうだ。
内側の部分は蛇のお腹のようだけど、他は真っ黒な細かい鱗がビッチリついている。
お兄ぃがゲームで狩っていたブラックドラゴンみたいな尻尾だなぁ。
大剣振り回してぶったぎってたっけ……ヘタクソだから何回もタイミングミスってぶっとばされてたけど……
話がそれて、思わずお尻の方にかかっていた力がぬけてビチビチが止まる。
ついでに体重ががっつり尻尾に乗っかっていたので、力を抜くと潰されて痛い痛いいたいいたいっ!!
慌てて横にベチャッ! っと倒れて抱えるように尻尾をさすさすさす……
あー……これ間違いない。自分の尻尾だわ。
そんでもって……
動かしてる間はあんまり見てみぬ振りをしていたけど、さすがにもうそれは無理。
尻尾と同じような真っ黒な鱗のついた両腕両足を確認する。
指は四本、全部太い。
手のひらは肉球のようになっており柔らかそう。
関節は人間みたいに曲がるけど、器用そうには見えない。
あんまり物をつかむのには向いてなさそうだ。
そしてなにより指先から延びる鋭い爪!
鉤爪ってやつだろう、なんでもスパスパ斬れそうなほど鋭い。
ためしに肉球をチクっと刺してみたらメッチャ切れて血が噴き出した。
どうしようかと慌ててる間に血は止まってくれたからよかったけど……ヤバいよコレ。
こんなんで痒いところかいたら体中がズタズタにされてしまうよ。
どうにかならないもんかと色々試していると、半分以上が指の中に引っ込んだ。
今は爪の先っぽだけ飛び出している状態……まぁむき出しよりはだいぶマシか。
両足も似たようなもので、真っ黒な鱗に四本指。
指よりもぶっとい鉤爪が飛び出している。
こっちも出し入れはできるみたいだけど、手と違って半分ぐらいしか引っ込まないみたいだ。
足の裏も肉球みたいになってるんだろう……見えないけど。
身体の方はというと……
見事に全裸だ。
見下ろすかぎり胸やお腹、股の部分に鱗はなくて色素の薄い肌色……ってレベルじゃすまされないぐらいの灰色寄りだった。
ついでに股には男子の象徴もなかったので女の子のままみたいだ。
背中がどうなってるのかはわからないけど、脇腹からの後ろ側から鱗が見えたので背中にはあるんだろう。
手で届くかぎり触ったらザラザラしてたから間違いない。
背骨部分に鱗とは違ったなんか大きめの突起が連なってるっぽいけどコレはよくわかんない。
尻尾の下のお尻はつるつるすべすべだったので鱗はないのかな?
つまり、鎖骨から股ぐらまでの前面とお尻は、ごくごく普通の全裸の幼女。
B地区も母なる恥丘もぷりぷり桃尻も丸見えの、薄い本でよくあるモン娘(むす)仕様。
こんな人間が現代にいるわけがない。
ということは……
まじかー……
ゴロンッと仰向けに寝っ転がる。
いつのまにか水溜りの場所にまで戻ってきていたみたいで背中が冷たい。
なんとなく寝転がりながら上を見上げると、ひび割れた黒い残骸……私が生まれたであろう卵の残骸が残っている。
まじなんだよねー……
よくパソコンで読んでいた異世界物小説。
様々な生き物に転生していった主人公たちのストーリーを思い出しているうちに、いつの間にか睡魔に襲われてそのまま寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます