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 ホッとした様子の蘭子さんは、二週間とちょっと振りの間の事をポロポロと話し出した。なんてことない、他愛ない話だ。そんな話が水割り三杯目になった時、店内には蘭子さんしかいなかった。

「で、浩太郎さんとはどうなったんですか?」

「え」

 あからさまに表情を変えた。一バーテンが訊いていい内容じゃないかもしれない。けれど、どうなったのか気になる。進展があるにしろ、ないにしろ。

「あの日、大分参ってらしたようですけど」

「あー・・・」

 先日ベロベロになってタクシーに押し込んだ日のことだ。さんざん昔の惚気話を聞かされたが、浩太郎さんに恋人がいる事件は何も解決していない。そして今だに蘭子さんもその答えを聞いていないとみた。

「浩太郎の事ね」

「なにか分かりましたか?」

 現在恋人がいるのかいないのか。

「あー・・・うん・・・分かんない」

「分からない?」

「あ、でも連絡を取ってない訳じゃないのよ! 普通に連絡取っているし、電話もするし、普通よ?」

「普通、ですか」

 少しだけ呆れた表情をすると、うっ、と蘭子さんの顔が陰る。

「だって、そんなの、訊いちゃったら」

「壊れてしまう、ですか?」

 過去も想いも、浩太郎さん像も。

「でも」

「でも?」

「このままを続けるつもりですか? ずっと苦しい思いをして浩太郎さんを見続けるのですか? こんなに辛い顔をしているのに」

 蘭子さんが浩太郎さんを一番に考えて生きて来たのは、今までの付き合いで分かる。世界で一番、きっと仕事とか肩書きとか、そんなことよりも一番に大切な人。

「蘭子さんは笑顔が一番素敵です。本当の笑顔を取り戻すためにも、確認してみるのはいかがですか」

「かく、にん」

「よろしければ、電話をしていただいて構いません。幸い、ここには私と蘭子さんだけですから」

 蘭子さんはそれからじっと黙って長い間スマホと睨めっこしていた。それから小さく「よし」と零すと、おもむろに顔を上げて言った。

「頑張る」

「はい」

 その声は凛としていて、蘭子さんそのものだった。コールの後、パッと表情が変わったのを確認して湯を沸かした。

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