カラナシの恋
カゲトモ
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「・・・ばんは」
ベルの音が聞き間違いかと思うくらい小さく揺れて、その後にか細い声が聞こえた。
「蘭子さん」
「お久しぶりです」
そろっと入って来たのは、きっちりとジャケットを着こんだ蘭子さんだった。手にはストールが掛けられている。
「こんばんは、いらっしゃいませ」
席へ促してカウンターを挟む。蘭子さんは気まずそうに視線を逸らしている。自信満々のキャリアウーマン、と言った感じの風貌で。・・・前回の事を気にしているのだろう。
「マスター、あの・・・」
その声を聞いても分かる。
「先日のことでしたらお気になさらず。それよりも無事に帰宅できましたか?」
「え、あー、うん。大丈夫、ちゃんと朝起きたら自分の部屋にいたし」
「それはよかった」
「それで、その・・・これ、よかったら・・・」
来店して初めて視線を合わせてから、蘭子さんはずずい、と小箱を渡してきた。
「うちの商品なんだけど、多分マスターの好みに合うと思うし、受け取って」
先日のお詫びなのだろう。受け取るのも躊躇われるが・・・受け取らないのも困らせてしまうのは目に見えている、か。
「いえ、頂くわけには」
でも一応断る。
「そんなこと言わずに、本当にちょっとしたものだから」
「でも」
「お願い、貰って?」
「・・・有り難く頂戴いたします」
綺麗に梱包された小箱は大手デパートの包装紙で包まれている。蘭子さんのご実家はかの有名な“鹿本グループ”だ。総資産ウン百億とかの大金持ちで、旅行やら電気やら手広く商売をしている。その中の宝石商のトップが蘭子さんだ。
「とりあえずウィスキー水割りで」
「かしこまりました」
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