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 わたしは今、誰を思って泣いていたのだろう。

 不思議に思ったくもりぞらの日、わたしはひとりの幽霊が見えるようになった。

「こんにちは! 君には僕が見えるんだね!」

 名を聞いても名乗らないこの幽霊は、底抜けに明るい。

 思い出せないけど、どこかで会った気がした。

 「んー?」

 彼はわたしの思考を読んで、笑った。


 その幽霊は、守護霊らしかった。

 わたしに何かあれば、彼は全力で守ってくれた。

 いじめに遭っていたわたしを守ってくれた。毎朝机に書かれるイタズラ書きは彼が消してくれたし、上履きの中の画鋲だって彼が綺麗になくしてくれた。陰口も聞こえないように気を配ってくれた。

 彼はどうしてこんなことをするんだろう。

「……だって、僕は君を守ると決めたから」

 彼はいつも、わたしの心を読んでは笑う。

 ……なんだそれ。カッコつけた笑みがウザい、と思った。

 わたしのことを知っていた訳でもないのに、勝手に守護霊にさせられて、幽霊も大変だな。

「それが守護霊だからさ」

 勝手に心を読む守護霊は、大層都合いいものだ。


 認めなくてはいけないことがある。

 彼がいて、寂しいという感情が嘘のように消え失せたことだ。

「寂しくないなら、よかった」

 不意に現れてそんなことを言って、彼はまた笑っていた。

 彼はわたしに手を伸ばしかけて、笑った。今度は寂しそうに。

 どうして、そんな寂しそうに笑うんだろう。

 いつもわたしの心を読む彼が、なぜか何も言わなかった。

 彼はわたしの心を無駄に読むくせに。

「今、無駄だって思ったな!?」

 無駄じゃないの?

「無駄じゃないし」

 今度は、嬉しそうに笑った。

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