第40話 魔王復活
「魔王ォ……ッ!」
血反吐を吐きながら、岩壁にぶつかったラブリアが立ち上がる。
だが、すぐさまラブリアはその顔に歪んで笑みを浮かべ、笑い始める。
「は、ははは! まさか、あの聖剣を受けてまだ立っていられたとは! ですが、もうその体に聖剣の呪いによる毒が回っているはず! いかに魔王と言えど、貴様を殺すために作られた聖剣の呪いからは逃れられぬはず!」
哄笑を上げながらパパを指差すラブリアであったが、そんな彼女に対しパパは鼻を鳴らす。
「傷とはどれのことだ?」
そう言って胸元の服を脱いだパパの体には一切の傷がなかった。
そこには確かに背中から胸にかけて貫かれたはずの傷があったはずだが、まるで何もなかったかのようにパパの肉体のみがあった。
「!? ば、馬鹿な!? そんなことが!?」
その光景を見て、初めて驚愕に顔を歪めるラブリア。
そんな彼女に対してパパはこれまでにない覇気を纏わせる。
「さて、我が城に無断で戦を仕掛け、あまつさえこの私を葬ろうとした貴様の罪。もはや語るまでもないな」
言って天使をひと睨みすると、それだけでラブリアは恐怖にすくみあがった。
「この場で貴様の存在ごと消滅させてやろう」
そう断言するパパに対し、しかしラブリアはその顔を歪ませながら叫ぶ。
「魔王がァ! 調子に乗るなぁッ!! 以前までなら、いざ知らず! 力の半分を失ったお前ならば私でも倒すことは可能だッ!!」
そう言ってラブリアは天高く飛び立つと同時に、その頭上にこれまでにない光輝が集わせる。
それは先程私を襲った光輝とは比べ物にならない質量であり輝き。
そして、その輝きを凝縮させたまま、ラブリアはそれを鉄槌として眼下のパパ目掛け、解き放つ。
「死ねえええええええええええええッ!!」
ラブリアから放たれたそれはまさに天よりの鉄槌。
周囲すべてを崩壊させながら、パパを飲み込み、巨大な光の柱が天空高く吹き上がる。
その熱力、威力、全てにおいてかつて私が見たどの技の遥か上を行っていた。
このようなものを喰らえば、並みの人間なら即座に蒸発し、消滅する。
いくらパパとは言え、力の半分を失った状態でこんな一撃を食らっては……!
そんなわずかな心配が私の中に走り、一方のラブリアは勝利を確信してか、この場に響くような高笑いを上げていた。
「あっはっはっはっはっはっ! 見たか、魔王め! 所詮、貴様など天よりの遣いである私にかかれば造作もない虫けらよ! あーはっはっはっはっはっ!!」
ひたすらに笑い声を上げるラブリアであったが、次の瞬間、空を舞っていた彼女の羽が引き裂かれた。
「……え?」
それは光の柱から放たれた闇の一閃。
音もなく翼を引き裂かれたラブリアはそのまま地上へと激突する。
何が起こったのか呆然とする彼女の眼前にて、光の柱が急激に収縮していく。
「私が虫けらなら、お前は羽を撃ち落とされ、もがくだけのハエだな」
そのセリフと共に光の柱より全くの無傷のパパが姿を現す。
自らが放った最強の技がまるで通じていない事を目にしたラブリアはその目に明らかな恐怖を浮かべる。
「ば、馬鹿な……! な、なぜだ……! お前の力は半分になっているはず、なのになぜ無傷でいられる……!」
「簡単なことだ。例え半分になろうともお前と私とではそもそもの力の差がありすぎる。そういうことだろう」
自らを前に震える天使に対し、パパはあくまでも見下すようにそう告げる。
そして、そんな自らを見下す魔王に対し、天使は文字通り不倶戴天の敵を見るように、その形相を歪ませる。
「魔王がぁ……! その汚れた眼で天の遣いたるこの私を見下すなああああああああああ!!!」
そして、何を思ったのかラブリアはそのまま魔王に飛びつくと、その首元へと噛み付いた。
それはまさに形振りを捨てた獣のような行動であり、そのままラブリアの体に先程以上の力が内部より溢れ出す。
「このまま貴様の様な奴にやられるくらいなら、共に葬り去ってくれるうううう!!」
それはまさにパパもろとも自爆しようとした天使の最後の足掻きであり、今まさに超高密度の爆発間近の天使を前に私は慌ててそれを止めに入ろうとするが、
「やれやれ、これではハエというよりも、ただの野犬だな」
しかしパパはそんなラブリアの噛み付きも自爆もものともせず、そのまま彼女の頭を握ると無理やり引き剥がし、その胸に重い一撃を浴びせると同時に遥か頭上へと吹き飛ばす。
「があ―――ッ!!」
獣のような声を上げながら、空中へと吹き飛ぶラブリア。
そこにはかつて美しかった天の遣いたる姿はなく、そんな彼女を見上げながらパパは告げる。
「そんなにも見下されるのが嫌なら。貴様が好きな天を仰ぎながら逝くがいい」
そう告げると同時にパパの両手にはかつてない魔力が溢れる。
そして、それを空中のラブリア目掛け解き放った。
「があああああああああああああああああああああああ!!!」
それはまさに地上から空へと飛び立つ彗星のように。
パパから放たれた巨大な光はラブリアを包んだまま、彼女の体を消滅させながら、彼女がいたであろう遥か天空へと彼女の体ごと登っていった。
「天へと堕ちるがいい、天使よ」
そのパパのセリフ通り、ラブリアは遥か天空のゴミ屑となり、消滅した。
そうして、あまりにも圧倒的力の差を見せつけたパパの視線が不意にこちらを振り向く。
いや、正確にはその目は私達の背後へと向けられていた。
思わず、パパの視線を追うように後ろを振り向くと、そこには以前見たあのザインガルドの勇者クラトスの姿があった。
「ぐ、うっ……」
「グレン!」
見るとクラトスの肩にはボロボロとなったグレンの姿があり、私は思わずグレンの名を叫ぶ。
その瞬間、クラトスが私へと視線を向け、その氷のような目に一瞬体をこわばらせるが、彼はそれに構うことなく、肩に抱いていたグレンを私の方へと放り投げる。
「安心しろ、命に別条はない」
そのクラトスの言葉通り、確かにグレンは傷を負ってはいたが、命に別状があるほどではなかった。
むしろ「ま、まだ終わってねぇぞ……!」とグレンが立ち上がろうとしたため、私はそれを無理やり押さえつけた。
「無理をするな。お前のような戦士を殺すのは惜しい。何よりまた私と再戦したいのなら、それまでに腕を磨いておけ」
そうグレンに向け呟いたクラトスの表情は、芯の通った戦士のようであり、その瞳には一切の迷いがなかった。
そして、その視線はやがて目の前にいる魔王へと移される。
「……あの天使が言うには瀕死の重傷だったらしいが、どうやら無事のようだな。魔王よ」
「ああ、お生憎様だったな。がっかりしたか? 勇者よ」
そう皮肉めいた事を言うパパに対し、しかしクラトスは笑みを浮かべて首を横に振る。
「まさか、むしろ安心した。確かに以前に比べてお前の力は弱まっているようだが、それでも魔王と呼ぶに相応しい力は健在のようだ」
そう言ってクラトスはどこか安心したように微笑んだまま、マントを翻し背中を見せる。
「本来ならば、ここでお前との決着をつけたかったが、お互いに万全の様子とは言い難い。今回はお前の無事を確認出来ただけでも良しとしよう。この場は退く。だが、次までにはその身を万全の状態に戻しておけよ、魔王。お前を倒すのはこの私だ」
「そのセリフ、魔王たる我が言うべきものではないのか?」
立ち去るクラトスの背中に向けて、パパは苦笑を浮かべながら呟く。
それに対し、クラトスが答えることはなく、そのまま「全軍! これより撤退を開始する!」というクラトスの声が戦場中に響き渡り、この地で激しい戦闘を繰り広げていた人族の兵士達が撤退を開始し出す。
そうして、魔王城にて行われた戦いは幕を閉じた。
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