第38話 勇者軍VS魔王軍
「おっらああああああああああああああッ!!!」
まず最初に怒声と共に駆け出したのは四天王・爆炎使いのグレンであった。
彼はその身に炎の鎧を身にまとうと、そのまま外壁から飛び出し、まるで流星のようにザインガルド軍の中央へと突進する。
「おおおおおおおおおおおおおッ!!」
グレンが地面に着弾すると同時にその場所を中心に、凄まじい勢いの爆発が生じ、周囲にいた兵士達が吹き飛ばす。
それだけでなく、彼を中心とした地面には文字通り隕石が激突したようなクレーターが生じ、それを見ていた周りの兵士達はあまりの恐ろしさに息を呑む。
が、そんなグレンを前にまるで物怖じすることなく、黒馬に跨った一人の勇者がそのまま馬上より眼下のグレン目掛け、剣を振り下ろす。
「――だっらああああああ!!」
そんな頭上からの奇襲に対し、グレンは拳にまとった炎の一撃により相打ちを行う。
両者の激しい一撃により周囲には先程以上の衝撃波が巻き起こり、互いの威力に弾かれるように両者の距離が離れる。
「よお、ザインガルドの勇者様。魔王様の首を獲りに来たのか? だが、残念だったな。魔王様の相手をしたければ、まず先にオレを倒してからにしな」
炎をまとわせながら拳を突き出すグレンであったが、その右拳は先程の剣の一撃によりわずかな傷が入り、拳の先からは血が滴り地面へと染みをつけていた。
一方の馬に跨ったクラトスは愛刀にはわずかな傷すら存在せず、その呼吸も最初と変わらず乱れた様子がなく、自らに立ちふさがった敵に対し、ただ冷静な一言を返す。
「貴様に用はない。命が惜しければさっさと退け。私が用があるのは魔王のみ。雑魚は見逃してやる故、とく失せよ」
そのクラトスのセリフにグレンはかつてないほどの激昂を見せ、先ほどとは比べ物にならない炎をその身に宿す。
「へぇ、おもしれぇ……四天王のオレを掴まえて雑魚呼ばわりかよ……。いいぜ、なら、本当にオレが雑魚かどうか――」
次の瞬間、グレンの体が真っ赤に燃え上がると同時に、その姿が変貌する。
それはかつて七海と対峙した時に見せた赤竜の力を解放したグレンの真の姿であった。
「試してみろおおおおお!! このクソ勇者がああああああああああ!!」
そして、そのまま天地を揺るがすほどの咆哮と共にグレンは目の前の勇者クラトスに向け、突進を開始した。
◇ ◇ ◇
一方で、そんなクラトスとグレンとの戦いを横にもうひとつの因縁の戦いも開始されようとしていた。
「あら~、困りましたわね~」
それは真っ白な翼を生やした、まさに天よりの遣いに相応しい美貌を持った女性。
しかし、そんな彼女の美しい顔が目の前の立つ人物を見るや否や、暗く歪んでいった。
「あなたのような汚らわしい堕天使の相手は他に任せたいのですが~、そうもいかないようですね~」
堕天使。彼女がそう呼んだ存在イブリスは、殺意に満ちた眼で目の前の天使ラブリアを睨んでいた。
「……貴方だけは私の手で始末します。魔王様を傷つけたことは勿論、七海様を利用した罪は裁かれて当然です」
「裁く? 堕天使のあなたが天使の私をですか~?」
そんなイブリスからの宣言に対し、ラブリアはさもおかしいとばかりに笑いをこらえながら答える。
「汚らわしい堕天使が、天に仕える天使に敵うわけがないでしょう~」
そんなこちらを見下す天使に対し、イブリスは周囲に闇の魔力を生み出し、それらを目の前のラブリア目掛け放つ。
だが、それが到達する前にラブリア手のひらから生み出した光の壁が、イブリスからの闇の魔力を打ち消す。
ならばと天高く腕を上げ、それを振り下ろすと同時に、空より暗黒の雷がラブリアへと直撃する。
「――やったか!?」
堕天使とはいえ、かつては天使。その力により天空に存在する雷を操るイブリスであったが、しかし煙幕が晴れた後に映ったのは光の壁に守護されたまま傷一つないラブリアの姿であった。
「!? そんなまさか……!」
驚くイブリスに対し、ラブリアは相変わらずの笑みを浮かべたまま宣言する。
「天より見放されたあなたが、天からの祝福を得ている私に勝てる道理なんてあるわけがないでしょう~」
そうラブリアが告げると同時に彼女の頭上より無数の光輝が溢れ、それらの光は無数の刃となり、イブリス目掛け文字通り雨のように降り注ぐ。
「……くッ!」
咄嗟に自らの前に壁を形成するものの、いくつかの刃はその壁を貫通し、イブリスの肉体を貫き、彼女の体から赤い血を流させる。
「ぐ、う……!」
右足、左腕、脇腹、右肩と同時にいくつもの場所を貫かれたイブリスはその場に膝を折り、体に走る激痛に耐えるように苦悶の表情を浮かべる。
そんな彼女を見下すラブリアはその唇に笑みを浮かべる。
「あらあら~、汚らわしい堕天使とは言え、流す血はそれなりに綺麗ですわね~」
そんなおっとりとした口調であるものの、ラブリアイブリスを見る目はまさに足元でもがく虫を見るように冷徹なものであった。
そんな彼女に対し、怒りを燃やし立ち上がろうとするイブリスであったが、そんな彼女の足目掛け、ラブリアの光輝の剣が突き刺さる。
「ッ! ぐ、あああああああッ!!」
左足の甲を貫かれ、その激痛に悲鳴をあげるイブリス。
そんな彼女の悲鳴もラブリアにとっては心地よい音楽のようであり、鼻歌交じりにイブリスに近づき、彼女の喉をその手で掴む。
「さて、私達天界を裏切った堕天使であるあなたには相応の罰を与えましょう~。このまま天使の裁きにより浄化させてあげますよ~」
「ぐ、う……!」
自らの腕の中でもがくイブリスを眺めながらラブリアがトドメを刺そうとしたその瞬間、何者かが放った魔術がラブリアの腕に命中し、その衝撃によりイブリスを離す。
「……!」
空中に解放されたイブリス、そしてそんな彼女をすかさずキャッチしたのは異世界より転生せし魔王の娘。
「大丈夫、イブリス!?」
「七海、様……?」
世良七海。魔王の娘である彼女の姿を確認し、イブリスは安堵の息をついた。
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