第29話 聖剣の封印
「ここが……洞窟の最深部」
そこは光り輝く水晶に覆われた美しい広間だった。
それまでの土の壁に覆われた通路とは一変し、最深部は幻想的な光景が広がっていた。
そんな美しい空間の中心に一つの台座が存在し、その台座に一本の剣が突き刺さっていた。
荘厳な装飾が施された銀色の剣。
まさに物語に出てくるような聖剣を絵に描いたような武器。
一目見るだけで、それが力のある聖剣だと素人の私にも理解出来た。
そして、それを肯定するようにアゼルもまた呟く。
「あれが魔王を倒せる唯一の武器、聖剣です」
アゼルのその言葉に思わず唾を飲み込む私。
隣を見るとアゼルも緊張した面持ちで私を見ていた。
「あの剣は並の者が触れれば、たちまち強力な力で弾き飛ばされます。ですが、魔王の血を受け継いだ七海さんなら、その衝撃を受けることなく剣を引き抜けるはずです。さあ、早くあの聖剣を抜いて封印を解いてください」
封印……。なるほど、あの台座自体が封印ということなのか。
アゼルのその言葉に頷き、私は静かに台座に近づき、そこに突き刺さった剣に手を伸ばす。
これでパパを止めることが出来る。そう思った瞬間――
「お止めください! 七海様!」
突如、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
見るとそこにはメイド服に身を包んだ黒髪の女性――イブリスが立っていた。
「イブリス!? どうして、ここに!?」
思わぬ彼女の登場に驚く私は咄嗟に彼女に問いかける。
「……七海様が何者かにさらわれたとして、その者が七海様を連れて行きそうな場所をしらみつぶしに探していました。何箇所か移動し、ようやく当たりにぶつかったのです」
そう説明したイブリスは、そのまま私の隣にいるアゼルを見据える。
「――七海様。あなた様が何を言われたのかは知りませんが、その者は七海様を利用しているだけです。その剣は魔王様を害するとても危険な武器なのです。今すぐそれに触れるのはお止めください」
今までになく焦るイブリスのセリフに、この剣が本当にパパを倒す可能性がある武器なのだと実感する。
しかし、私はイブリスの言うことに従うことなく、むしろ言い返すようにある事実を突きつける。
「……残念だけど、その頼みは聞き入れられないよ。だって、私はこの武器でパパの世界征服なんて馬鹿げた野望を止めるつもりなんだから」
「!? 正気なのですか、七海様! 確かに七海様の父上は世界を征服しようとしていますが、それも全ては七海様のためであり、引いてはこの世界の魔族のため――」
「そのためなら人間を犠牲にしてもいいの!」
まくし立てるイブリスに対し、私は思わず大声を上げて反論していた。
そんな私をイブリスは驚いたように見ていた。
「……ナズールで起きた事を、私は見たよ」
「!? あの国の惨事を、見たのですか!?」
その国の名を出した瞬間、イブリスの顔色が変わるのが見えた。
やはり、あの国で起きたことは事実なのだと、その瞬間確信した。
「そうだよ! パパにこれ以上、あんな酷いことをさせるわけにはいかない! 世界征服のためにこの世界の人間や、その国を滅ぼしていいはずがない! 私はこの武器でパパの野望を阻止するよ!」
「お、お待ちください! 七海様! 違うのです! あの国は――」
慌てるイブリスの静止を聞かず、私はそのまま台座に突き刺さった剣に手を伸ばし、それを引き抜いた。
瞬間、剣から眩い光が放たれ辺りを包み込む。
あまりの眩しさに目を背ける私だったが、次第に光は手の中に収まっていき、後には神々しい輝きを放つ聖剣の姿があった。
「これが……聖剣」
思わずそう呟いた私だったが、次の瞬間、私は背後から何者かに突き飛ばされると同時に、手に持った聖剣を奪い取られてしまう。
「ッ! きゃあ!」
「七海様!」
イブリスの声に反応し、慌てて上半身を起こすと、そこにはにこやかな笑みを浮かべたアゼルの姿があった。
「いやぁ、ご苦労様です。七海さん、これで無事に聖剣の封印は解かれて、魔王を倒せる武器が僕の手に収まりました」
そう呟いたアゼルの表情はいつもの爽やかな笑みでありながら、その目は全く笑っていなかった。
どころか私を見るその目はとても冷ややかで、まるで虫けらを見るような目であった。
一体何が? と問いかける暇もなく、イブリスがこちらに近づくよりも早くアゼルは倒れたままの私を無理やり立たせるとそのまま羽交い締めにして、まるで人質にでもするように私を拘束した。
いや、違う。これはまるでなんかじゃない――
「さて、それでは君には次の役割もちゃんと果たしてもらいましょうか」
瞬間、アゼルはこれまでにない歪んだ笑みを浮かべ、その本性を現し、私に告げた。
「魔王への人質としての役割を、存分に果たしてもらいますよ」
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