第25話 目覚めは王子様と共に
「……ん……んんっ…………はっ!」
ガバッと私は慌てて、その場に起き上がる。
見るとそこは見たことのない広さの豪勢な部屋。周囲に置かれた装飾もひと目で高級品だとわかるものばかりである。まるで王族や貴族が暮らす部屋であった。
そんな場違いな部屋で目覚め、呆然としている私に背後から誰かが声をかけてくる。
「どうやら目が覚めたみたいですね」
その声に振り向くとそこにいたのは金髪の髪を揺らす、物語に出てきそうな王子様のような人物であった。
歳は十代後半や二十代前半。着ている衣装から、王族ではないかと思われた。
その人物は私を見ると、優しく微笑み、自己紹介をする。
「初めまして、僕の名前はアゼル・レイトン。この国の第二王子であり、君と同じ勇者で序列8位の勇者だよ。よろしくね」
「あ、は、はい、よろしく……って、ええ!?」
思わぬその青年――アゼルからの自己紹介に私は思わず慌てる。
勇者、この人が!? それに序列8位って滅茶苦茶強い人じゃん!? しかも王族!? なんで、そんな人が私の目の前に!? というか、そもそもなんで私がここに!?
そんな色んな疑問が沸き起こり、混乱する私をアゼルと名乗った青年が落ち着かせるように話を進める。
「混乱する気持ちは分かるけれど、まずは僕の話を聞いてもらってもいいかな?」
アゼルの丁寧な物腰と態度に、私はほんの少し冷静さを取り戻し、とりあえず話を聞くことにした。
「ありがとう。まず最初に言っておくと、ここは君のいたルーデリア王国ではなく、ザインガルド王国の首都ザナタスなんだ」
ザインガルド王国? どこかで聞いたよう名前であったが、それを思い出せない私は首を傾げる。そんな私に対しアゼルは親切に説明してくれた。
「ザインガルド王国は人族が治める国の中でも最も繁栄しているとされる王国だよ。魔王との戦いにおいて高い戦果を上げていて、まさに人類の要とされる王国なんだ」
へえ、そうなんだ。と頷いていると、アゼルは更に笑顔を浮かべて続けてくれる。
「ちなみにこの国を収めている王は僕の兄で、同じ勇者の称号を持つ人なんだ。序列は第2位で人類の率いるに相応しい実力者でもあるんだよ」
第2位! すごい……! という事は、この国には第2位と第8位の勇者がいるってこと?
ほへー、すごいなーと感心した様子で頷く私だけど、そこで更なる疑問が沸いてくる。
どうして、そんなすごい国に私がいるのかということ。
その事を問いかけると、アゼルはどこか言いにくそうに顔を背けて呟く。
「実はその……こう言うと、あまりいい気持ちにはならないかもしれないけれど、君を無理やりここへ連れてきたんだ……」
へ? どういうこと?
「つまりその……言い方を悪くすると路地を歩いていた君をさらって、ここまで連れてきたということになるね……申し訳ない」
そう言って謝るアゼルに対し、私は当然怒りの感情が出てくるが、それ以上に疑問の方が強く出た。
なぜ? 何のために私をさらったのか? その理由と意図が全く分からなかったからだ。
その事に対し、アゼルに問いかけると、その答えは意外なところから返ってきた。
「それは~、私がアゼルさんにお願いしたからです~」
その声に振り向くと、そこにいたのはまさに予想外の人物であった。
「! あ、あなたは、あの時の……天使!?」
そこにいたのは翼を生やした金髪の美しい女性。
あの日、私が死んだとイブリスに宣言され、そのままイブリスによって転生されようとした時に、私の前に現れた天使の女性であった。
名前は確か――
「ラブリアです~。覚えていただけて光栄ですわ~」
ラブリアと名乗った女性は嬉しそうに片手を頬に当てて微笑む。
しかし、そんな天使ラブリアを前に私は困惑するしかなかった。
「えっと、どうして天使様が私を……?」
混乱する頭で必死にそう問いかけるとラブリアは申し訳なさそうに答えた。
「それは~、あなたにこの世界を救って欲しいからです~」
「へ?」
思わず素で間抜けな声を出してしまう。
それって、どういうこと? 問いかける私にラブリアは真剣な表情となり続ける。
「実は~、元々あなたを転生する際、この世界に転生させる予定だったのです~。その理由が~、あなたのお父上、魔王の暴挙をあなたに止めていただくためです~」
あっ、なるほど。即座に理解する。
という事はあの時、イブリスが転生させなくても、後から来たこの人の手によって私は結局この世界に転生していたのだろうか? と質問すると、ラブリアは首を縦に振った。
「はい~。ですが、その場合はちゃんと私達天使の加護によって七海様には魔王に対抗する力を授ける予定でした。先にイブリスの手によって転生されたために、それはなくなったのですが、結果としてこの世界に来てくれただけでも目的は果たせたとも言えます~」
なるほど……。それにしても私に魔王を止めるなんて、そんなだいそれた事が出来るのだろうか?
いや、確かに私はその魔王の娘なんだけど、それで勝てるかどうかって言われると……うーん。
「いえ、確かに七海様は魔王の娘で、ひどく溺愛されているのは分かっています~。ですが、それとは別に七海様でないと魔王を倒せない理由があるのですよ~」
「え、それってどういう……?」
問いかける私に対し、ラブリアは満面の笑みで答えた。
「七海様に魔王を倒せる聖剣の封印を解いて欲しいのです~」
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