第20話 四天王と過ごす穏やかな日常風景
「ナナミー。これ読んでこれー」
「あ、うん、いいよ。分かった」
現在、私の膝には銀髪のふわふわした髪の幼女、スイレンが座っていた。
スイレンは先程から何冊か絵本を私に渡して、それの読み聞かえをお願いしていた。
「ナナミー。お腹減ったから、そろそろご飯食べに行こうー」
「あ、うん。そうだね。ちょうどお昼だし、そろそろ行こうか」
「うん!」
その提案により街に繰り出す私とスイレン。
彼女は右手で私の手を握り、もう片方の手でお気に入りのぬいぐるみを抱きしめていた。
聞くところによると、そのぬいぐるみは『バク』と呼ばれる幻獣のぬいぐるみらしい。
私の知ってるバクよりも、どちらかというとパンダっぽい生き物であったが、そこはそれ。異世界っぽい生き物と言えた。
「ナナミー! あそこにあるデザート食べたーい!」
目をキラキラさせたスイレンが指した先にあったのは棒に緑色のゼリーが突き刺さったもの。
商品名は『スライムゼリー』というらしい。まんまだな。
まさかとは思うけれど、本物のスライムじゃないわよね……?
そんなことを思いつつも、スイレンが「食べたい食べたい!」と私の腕を引っ張るものだから、仕方なく購入。私の分も合わせて二個買った。
「わ~い! ナナミ、ありがとうー!」
笑顔を浮かべてゼリーを頬張るスイレン。そんな無邪気な彼女の顔を見ていると私も胸が温かくなる。
ちなみに私も食べてみると、案外イケた。りんごのような味のゼリーだ。
「おや、ナナミちゃん。その子は妹さんか、何かかい? 仲いいねー」
「え、ええ、まあ、そんなところです」
道行く人達に何度かそのように話しかけられる。
最近はスイレンと一緒にいることが多くなったために街の人達もスイレンの顔を覚えていた。
とは言え、まさかこの子が魔王軍の四天王の一人とは誰も気づいていないだろうが……。
そういえば、あれからこの子は私に付きっきりでパパと遊べてないみたいだけど、そのへんは大丈夫なんだろうかと、問いかけてみると――
「平気! ナナミが一緒にいてくれるし、ナナミと遊んでる方が魔王様と一緒にいる時よりも楽しいかも!」
と素直に答えてくれた。
私的にはすごく嬉しい言葉だったけど、これパパが聞いたら、軽くショック受けそうだな。
とりあえず、今のセリフは私の胸の中に大事に締まっておくことにした。
「ナナミー! あそこの屋台で売ってる料理、食べてみたいー!」
見るとそこではステーキのような厚みのある肉を串焼きにして焼いている屋台があった。
肉の焼ける香ばしい匂いが漂い、なんとも食欲をそそる。
「あ、あのー、すみません。そちらよければ二人分お願いできますか?」
「はい、毎度! って、救世主様じゃないですか! 勿論喜んでサービスもさせていただきますよ!」
そんなこんなで屋台で買ったお肉を手に近くの公園で椅子に座ってスイレンと一緒にご飯を食べることになった。
なんだかんだと、この異世界生活にも馴染んで、最近ではこういう暮らしも悪くないかもと思い始めている自分がいた。
「お嬢さん、ちょっとよろしいでしょうか」
そんな折、ふと誰かが私に声をかけてきた。
顔を上げるとそこには両手いっぱいの花束を抱えた男性らしき人がいた。顔は花束で見えなかったが。
「よければ、これを受け取ってもらえないでしょうか。い、いえ、すみません。あまりにあなたの姿が可憐だったものでつい渡さずにはいれず」
「は、はぁ……」
多少、困惑しつつも私は差し出された花束を受け取る。
実こういうことは少なくはない。というのも街を守った救世主ということで贈り物は日常茶飯であったためである。
そう思いつつ、もらった花束を受け取るのだが、どれも見たことのない花だった。
というか、気のせいか、この花達、先程からウネウネと動いているような。
「あの、これ、動いてますけど、一体どういう……」
「ああ、それはそうでしょう。何しろ、その花はデビルフラワーと呼ばれる魔族領地にしか咲かない貴重な花です。あ、といっても噛み付いたり襲ったりしないので安心してください。水を与えなくても勝手に自分達で栄養を補給するので枯れない花として有名なのですよ。ナナミ様」
見るとそこにいたのは赤い髪にバンダナ、冒険者の服を着ているが、間違いなく先日私に戦いを挑んだ四天王の一人、爆炎使いのグレンであった。
「って、おいー!! アンタなにやってんのよ―――!!!」
私は思わず受け取った花束を地面に投げつつ、堂々と姿を現しているグレンに詰め寄った。
すると、グレンはなぜだか照れた様子で顔を赤くしながら答える。
「い、いえ、あれからナナミ様のことを考えては胸が熱くなり、どうすればこの想いを伝えられるかと思い、この花束と共にあなたのお側にお仕えすることを約束しようかと!」
「じゃなくて、先日堂々と街を襲ってきた奴がそんな簡素な変装で現れるな――!!」
見ると、周りの何人かが先程から「あれってグレンじゃね? グレンじゃね?」「に、似てるけど違うだろう……多分」とかヒソヒソ話してるのよー!
「大丈夫です! オレは全く気にしませんから!」
私がするのよ!! と反論していると、私の隣にいたスイレンが私とグレンの間に立ち、キッとグレンを睨みつけて一言を呟く。
「グレン、ウザイ。ナナミは私とデートしてるんだから、あっち行ってよ」
「なななな、なんだとー!!? で、デートとはおま、おま!! 魔王様のご息女様に対して、なんちゅー不敬な行為を――!!!」
いや、白昼堂々とその魔王の娘を口説いてるあなたもどうかと思いますが。
そんなことを思っていると、スイレンは私との仲をグレンに見せつけるように私の腕にしがみつきながら、グレンに舌を出す。
「私とナナミは友達同士だからいいの。ナナミだって私のこと、友達にするって言ってくれたんだから。グレンみたいなDQNはお呼びじゃないから、さっさと持ち場に戻って侵攻の続きしてれば」
「誰がDQNじゃ!! てめえぇ!!!」
あー、やっぱこの世界、DQNって単語あるんだ。とか、そんなことをぼんやり思っていると、いつの間にか私を挟んでグレンとスイレンが激しい火花を散らしていた。
う、うーん、出来れば目立つからやめて欲しいんだけど。
そんな事を思っていると、私のそんな願いが天に届いたのか、二人の肩を叩き仲裁に現れる人物が出てきた。
「まあまあ、二人共落ち着いて。そんなに言い合いをしていたら、七海ちゃんが困るじゃないか」
それは爽やかな笑顔を浮かべた十五、六ほどの少年であり、黒い髪に冒険者な服を身にまとった、すごく見覚えのある顔であった。
「ここは一つ、オレが七海ちゃんとデートするってことで場を丸く収めようじゃないか!」
私はそんなことをいけしゃあしゃあと爽やかに宣言するオーリこと、私のパパの顔面に思いっきり右ストレートをブチ込むのであった。
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