第21話 魔王とデート?
「いーやーだー! パパも七海とデートするー! デートすーるーのー!!」
ウザイ。先程から最高にウザイ。
「ねぇー、七海ー。パパともデートしようよー」
そう言って私の腕に引っ付いてきているのは魔王こと、うちのパパ。
先日のスイレンとのデートから、やたらとこう言って引っ付いてくる。最高にウザイ。
「魔王様はそれよりも魔王軍の指揮に戻ってくださいよ。やはり、ここはこのグレンが七海お嬢様のお相手を」
「やだー! 七海と一緒に遊ぶのはスイレンなのー!」
なおパパだけでなく、グレンやスイレンまで一緒に混じって連日、私の取り合いを行っている。
どうすればいいの、この状況?
そんな風に頭を押さえている私を見かねてか、イブリスが両手をパチンと大きく合わせて宣言する。
「皆さん、それではこういうのはどうでしょうか? 一人ずつ一日七海様にお付き合いいただくということで。それでお互いに七海様の取り合いをするのはやめるということで」
「はああああぁぁ!? ちょ、何勝手なこと言ってるのよー!?」
イブリスのその提案に対し、私は彼女に対し思いっきり詰め寄る。
しかし、そんな私に対しイブリスは落ち着いた態度のまま返す。
「どの道、このままでは平行線ですし、七海様も連日の取り合いで疲れるばかりでしょう。ここはこういう打開策が一番だと思いますが」
それは確かにそうかもしれない。悩む私に対し、後ろではパパ達が、
「いいね! パパ、それ大歓迎だよ!」
「お、オレもお嬢様と一日デート出来れば十分です!」
「私もそれでいい」
と、それぞれに納得している。
確かにそれぞれ一回付き合って納得するなら、それに越したことはないか。
そんなこんなで私はイブリスの提案に従い、それぞれと一日ずつ付き合うことにした。
◇ ◇ ◇
「いやー、それにしても七海とデート出来るなんて、パパは幸せ者だなー!」
「ちょっとパパ! 大声で変なこと言わないでよ! それにこれはデートじゃなく、ただの買い物だから!」
そんなこんなで私はパパと一緒に街を散策していた。
いわゆる休日の買い物みたいなものなんだけれど、パパは先程から「デート、デート!」と無駄にはしゃいでいる。
「七海! 見てごらん、この大きなクマさん人形! これ買ってあげようか!」
「いらない。っていうか、そういうの置き場所に困るから」
「七海! この剣なんてどうだい! 伝説の鍛冶師制作の一品で聖剣に匹敵する性能だって! 買ってあげようか!」
「いらない。どうせ持て余すから」
「七海! この屋敷、今持ち主が売りに出してるって! パパが購入するから一緒に住まないかい!」
「もういらないって言ってるでしょう! ってか一緒に住んでどうするのよー!」
そんなこんなでパパが色んな物をオススメしてくるのだけれども、どうにもどこかズレているために素直に喜べない。
というか、私も王様からもらったお金や、デュラハン退治で得た報酬などもあり、実はお金にはそれほど困っていない。
だから、パパと一緒に買い物といっても何か欲しいものがあるわけではなかった。
「七海! あそこのデザートなかなか美味しそうだぞ! 一緒に食べよう!」
そこには先日食べたスライムゼリーがあった。
あれはなかなか美味しかったので、確かにまた食べてみたいかも。
そんなことを思い、パパからの誘いに頷くままデザートを購入。
口に入れてみるとやっぱり美味しい。
そんな私の様子を隣で見ていたパパが嬉しそうな笑顔を向けた。
「気に入ったなら、持ち帰り用にいくつか頼もうか? 他にも気になるのがあったらパパが買ってあげるよ」
「そ、そうね……じ、じゃあ……」
そんなパパからの甘いお誘いに私は思わず頷き、持ち帰り用と他にも気になるものをいくつか頼んだ。
その後、いくつかのお店を一緒に見て回ったが、その際のパパも変わらずハイテンションで楽しそうな笑顔を向けていた。
そんなパパの様子を見ていると、とてもこの世界を支配しようとしている魔王には思えなかった。
そうして、いくつかのお店を回るものの、特に目星い物は見つからず、気づくと時間だけが過ぎていった。
見ると、いつの間にか日が暮れ始めており、せっかくの買い物だったのに、あまり買いたいものが浮かばず、結局パパが楽しみにしていた買い物をできなかったのではと申し訳ない気持ちになり、思わず隣にいるパパを見上げる。
「いやー、楽しかったねー! 七海!」
しかし、そこにあったのは清々しいまでの笑顔であった。
私は思わずびっくりして、パパに問いかけた。
「楽しかったって……パパ、今日のあれで本当に満足したの?」
「当然だよ。七海と一緒に色んな場所を歩いて回れてんだからね。それだけで満足さ」
そう言って笑うパパを見て、私は驚く同時にちょっとした後ろめたさを感じた。
本当は私もパパと一緒にいる時間は嫌いではなく、楽しい部分が多い。
しかし長い間、パパに会えなかったせいか、パパと再会しても小さい頃のように甘えるということが出来ずにいた。
ましてやパパが異世界で魔王をしているため、どうしてもツンとした態度を取ってしまう。
けれども本当は心のどこかで、昔みたいに甘えたい気持ちもあった。
だけど、やはり人間の感情というのは複雑なものであり、特に親や兄弟、近い人になるほど、気持ちのままに素直に甘えるのが難しくなる。
それを思えば、これほど素直に私に好意をぶつけてくれるパパの事を、ほんの少しだけで羨ましく思えた。
「それじゃあ、そろそろ日も暮れてきたし、宿に戻ろうか!」
そんな私の気持ちの葛藤にパパが気づくはずもなく、満足した様子で帰ろうとするパパに対し、私はせめて少しでも甘えられたらと思い、その時、ふと露店に飾ってあった花のアクセサリーが目に飛び込んだ。
特に理由はない。
別段それが気に入ったというわけでもない。
言ってしまえば本当に目に留まった。その程度のものであった。
けれども私は思わず、先を歩くパパの腕を引っ張り、露店に飾ってあったそのアクセサリーを指で指した。
「あ、あのさ、パパ……その……あ、あれ……か、買って、くれない、かな……」
小声で、思わず消え入りそうな声でそう呟いた私は思わず顔を真っ赤にして伏せてしまうが、次の瞬間、私の耳に飛び込んできたのはこれまでにないパパの嬉しそうな声であった。
「わ、分かった!! ぱ、パパに任せてご覧!!」
見るとそこには私以上に嬉しさのあまり顔を真っ赤にしたパパが瞳をキラキラさせた様子で、そのまま露店の主人に詰め寄っていた。
「ここにあるこの花のアクセサリーをくれ! い、いや、むしろ、この露店にある商品を全部くれ! 全部買い取るぞー!!」
「え、ええ!? ぜ、全部ですか!?」
「ちょ、パパ! 全部はいいからー!!」
興奮した様子のまま、そう言って暴走するパパを私は後ろから必死に止めるのでした。
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