第7話 気づくと勇者になっていました(小並感)
「ふむ。その方がこの街を魔王の侵略から救ったという英雄か」
「はぁ……まあ、そういうことになります……」
気づくと、私はこの国の王様だとかいう人の前で片膝をつき、そのようなことを口にしていた。
王様は五十代くらいの男性で、立派な髭と衣装を身にまとったいかにも老年な王という印象だった。
周りにはその王様を警備している兵士が数人佇んでおり、私の背後にはここまで私を担ぎ上げてきた街人達の姿も存在していた。
「ええ、その通りです。王様! この人の勇敢さと強さといったらもう!」
「なにせあの魔王相手にたった一人で立ち向かい、魔王が放つ攻撃も魔術も全て片手で防ぎ、間近に近づいた瞬間、渾身の右ストレートをその顔面に叩き込んだんですよ!」
「なんと!?」
街の人達の説明に思わず王様は玉座から立ち上がり、驚愕する。
いや! 確かに右ストレートはぶちかましましたけど、その前の魔王の攻撃を片手で防いだとかないから! 話が盛られてるから!
「しかも、それだけではなく、この方は魔王に飛びかかったかと思ったら魔王の頭を押さえながら自爆までしようとしたのです! それも私達を救うためにですよ!」
「なんと!? 自らの命と引き換えにしてまで我が国を救おうとしたのか!?」
いやいや! それ確実に話盛ってますから! そんなことしようとしてませんから!?
あれ単に私が我を失って癇癪起こしてたようなものですから!?
「自らの命と引き換えにした攻撃を前にさすがの魔王も焦ったのでしょう。血の気は失せ、まるでこの世の終わりのような表情を浮かべ、絶望のまま後ろに下がり、その女性に土下座までしたのです!」
「『今すぐこの街から失せるがいい、魔王よ! ここには私という勇者がいる限り、お前達の勝手にはさせん』と! その時のそのお方の神々しさと、凛々しさはまさしく天使の如く! 恐れを為した魔王はまるで廃人のように魂を抜かれて退散していったのです!」
「ま、まさか、あの魔王がそれほど怯えるとは……!? あ、あなた様は一体何者で……!?」
いやいや! そんなセリフ一言も言ってないですか! 尾ひれ背びれつけすぎだっての!!
ま、まあ、確かに魔王というかパパの去り際は、この世の終わりのような表情してたけどさ……。
せ、説明出来ない……。と、とりあえず私は曖昧に笑いながら「ぐ、偶然ですよー」と返すしかなかった。
「それほどの力を持っていながらなんと謙虚な……! あなたのような方こそ、まさしく勇者に相応しい!」
と玉座から立ち上がっていた王が興奮した様子で拳を振り上げると隣にいた兵士に何やら持ってこさせる。
「救世主様。どうぞこれをお受け取り下さい」
そう言って兵士に持ってこさせた箱を私の前に差し出す王様。
受け取った箱を開くと、そこにあったのは目もくらむような美しい剣と、身軽だけどかなりの高品質なのが分かる鎧にマント、それに金色に輝くカードが入っていた。
剣や鎧は分かるけれど、このカードはなんだろう? と不思議に思い、私は王様に問いかける。
「これはなんですか?」
「それは勇者証明証。いわばあなた様が『勇者』である証です」
すると王様はとんでもないことを答えた。
「……え? ゆ、勇者……?」
ちょっと待ってください。勇者って言うとあれですよね。
魔王と戦う伝説の人物。人々の希望であり、ファンタジーの主役。
けど、それって逆に言うと魔王と戦わなくちゃいけない滅茶苦茶大変な人であって……。
「いやいやいやいや! こんなのもらえませんから!!」
慌てて返そうとするとものの、そのまま王様に力尽くで戻される。
「いえいえいえいえ! 何をおっしゃいますか! あなた様ほど勇者に相応しいお方はおりません! その謙虚さも含めてまさに勇者の鏡のような存在です!!」
「そうですよ! 救世主様! あなた様こそ、勇者に相応しい存在です!」
「最近は口先ばかりの勇者が増えていますが、あなた様ならばきっとあの魔王を倒せます!」
「いやいや、もう倒したも同然だろう! あんな魔王の姿を見たことがあったか? この方以外にあの魔王をあそこまで叩き潰せた人なんていないぜ!」
「確かに! 勇者様! どうかその称号と共にこれからも我らをお守りくださいー!」
気づくと街の人はおろか周囲の兵士達まで私を勇者として担ぎ出していた。
ま、マズイ……この空気の流れで「やっぱなりたくないんで」とか断りづらい……。
ど、どうしようと悩んでいると、そんな私の困った姿を理解したのか、王様が柔和の笑みを浮かべて説明してくれた。
「ご安心を、救世主様。勇者の称号だからと言ってそれを重荷に背負う必要は全くございません。むしろ、これはこの街を救ってくださったあなた様へのお礼のようなものなのです」
え、どういうこと? と思わず顔を上げる。
「勇者の称号というのはそれだけでこの国だけではなく、様々な人族の王国で力を発揮します。例えば、その証明証を見せるだけで国境などはフリーパス。街の施設もほとんどが無料かあるいは半額以下の値段で利用が可能となります」
マジで!? それ凄くない!? 一種のゴールドカード!? と私はそれまでとは打って変わった表情で王様の説明を頷きながら聞く。
「貴族や領主、ギルドのメンバーは勿論、勇者の称号を持つ者であれば国王との面会も容易に可能ですし、協力を仰ぐことも可能です。これはいわば救世主様の今後をバックアップするための我々からの報酬だと思ってください」
なるほど。そう言われてみれば悪い気はしなくなってきた。
で、でも、勇者ってだけでなんか魔王と戦わなくっちゃいけないんでしょう……? と不安そうに王様に質問すると、
「確かにそれは勇者となった者の使命ですが、なにもそれは救世主様お一人だけの使命ではないのです」
え、どゆこと? 再び問いかけると、王様は懇切丁寧に説明してくれた。
「実はこの世界には救世主様以外にも様々な勇者が存在します。彼らは全員何らかの偉業、あるいは試練や試験を乗り越え、その『勇者証明証』を手にした者達です。その数はざっと千人を超え、その全員が打倒魔王を目指し日々活躍しているのです」
千人!? この世界そんなに勇者いたの!?
す、すごい数だ……。しかも、その人達全員ある程度の実力を持ってるってことなんでしょう?
え、なに、それチートすぎない? なんか、一気に勇者という肩書きの重みが軽くなり、渡された黄金の証明証をマジマジと見つめる。
するとそこには私の名前と共に妙な番号が刻まれていた。え、なにこれ?
不思議そうな顔をしている私に対し、王様が笑みを浮かべて説明してくれた。
「ああ、それは持った者の情報を読み取りデータとして刻む機能があるのです。一番上に書かれているのが救世主様のお名前ですね。どれどれ……ナナミ・セラ様とおっしゃるのですか。おお、救世主様に相応しい良い名ですな」
そ、そうかな? 救世主に相応しいかどうかはさておき、名前を褒められるのは悪い気はしなかったので私は素直に受け取る。
「その下にあるのがナナミ様のレベルですね。どれどれ……はて?」
と、そこで証明証に刻まれた私のレベルを見て王様を含めた覗き込んでいた全員が不思議そうに首をかしげる。
「レベル1……? ふむ、これはどういうことでしょうか? 魔王を軽く退けたナナミ様ほどの救世主が1というのはありえないのですが……証明証の故障ですかな?」
いや、多分それ合ってます……。
というか私ほとんど生身でこっちに転生してるらしいのでそこらへんの一般市民と同じレベルでも不思議はないかと……。
「これはあれですよ、王様。ナナミ様の能力が凄すぎてデータとして表現出来ないのですよ!」
「なるほど! そうか! いや、言われてみればナナミ様ほどのお方をデータで測るなど出来るはずもありませんでしたな! これは失礼いたしました」
王様の隣にいた兵士がそのような事を言って王様含む全員が納得したように頷く。
いや! 確かに最近はデータとかじゃ最弱と言われているけれど、実際はデータじゃ測れないような最弱装った最強主人公物も流行ってますけど、私のそれは違いますから! 完全に誤解ですから!
しかし、あまりに周りの皆が納得してヨイショしているものだから言うに言えない……。
そんなことを思いながら、手に握った証明証を見つめていると、レベルの下にもう一つ別の数字があるのを見つけた。
そこには「序列:1002」と書かれていた。
「あの、この序列っていうのは?」
「ああ、それですか。それは文字通りナナミ様の勇者の中における強さの序列を表しているのです」
「えっと、という事はつまりこれは現在私の強さは勇者の中で1002位くらいだと?」
「まあ、そうなりますかね」
さっき聞いた勇者の数がおよそ千人だとすると私ほぼ最下位じゃね? いや、というかこれは間違いなく最下位だわ。
軽く落ち込む私に対し、しかし王様は気にすることはないと笑い出す。
「ですがお気になさらずに! 先程も申した通りそれはあくまでデータ上の数字。実際のナナミ様の能力はそのような数値で測れるものではございません! 我々の見立てでは間違いなくナナミ様は一桁代に匹敵する勇者ですとも!」
「はぁ……」
持ち上げてくれるのは嬉しいですけれど、それは絶対にないですから王様。
そんなこんなで王様や兵士は勿論、一緒についてきた街の人達から終始ヨイショされながら、私は王様からの報酬と共に、やや不本意ながらも半ば強引に『勇者証明証』なるゴールドカードを押し付けられたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます