第九章 悔いなき答え1

 婚姻の儀が行われる日の前日がやってきた。

 つまり、リーシンとの賭けの期日がやってきたのだ。

 その日の朝、わたしは明るい日差しで目が覚めた。

 わたしは起きあがると、部屋の窓を開け放ち、そこから見える青空を見つめた。

 その透き通るような青空を胸に刻みつけ、わたしは今日という日に臨むことにした。

「おはようございます」

「おはよう」

 シェンインや女官たちへの挨拶も、なんだか昨日とは違う心持ちのせいか、いつもと違って感じた。

 不思議と心が落ち着いている。

 フェイロンと会ったのは昨日のことだった。牢獄で別離を告げられ、結局どうすることもできずに、わたしは後宮へと戻っていった。

 そして、部屋に戻ってもう一度フェイロンの言葉の意味を考えた。

 ――これから進もうとしているきみの道がどんなものでも、きみが自分自身で決めたことなら僕はそれを応援する。

 それが彼の望みであり、わたしの決断すべきことだった。

 わたしは考えて考えて、ようやくその結論にたどり着いた。

 そして、今日という日を迎えていた。

 思えばこのひと月、悩んだり驚いたり、国を動かすような大きな事件があったりと、いろんなことがあった。

 これまでに経験してきたことのないことが目まぐるしくわたしを取り巻き、翻弄していった。

 本当に、とんでもない日々の連続だった。

 けれども、とんでもない日々だったというのに、過ぎ去ってしまえばなんだか夢の中の出来事だったような気すらする。

 そして、今日がリーシンと交わした約束の日。

 とうとうそのときがやってきたのだ。

 そんな重要な日だというのに、不思議とわたしの心は澄んでいた。

 なぜ今日という日に、こんなにも心が澄んでいるのか、自分自身不思議だった。

 なぜなのだろうと、わたしは空を仰ぐ。

 今日の空はとても高く、突き抜けるように美しい青色をしていた。

 限りなく広がる一面の空。

 心が澄んで思えるのは、もしかしたらこの青い空のせいかもしれない。

 いつだったか、この青い空のようになりたいと思った。そんなふうに自分もなりたいと。

 だからわたしは、それを決意した。

 正直に、真っ直ぐに生きよう。

 フェイロンが言ったように、わたしはわたし自身の道をわたし自身が決めるのだ。

 そうすることが、わたしの誠意となる。

 悔いなき答えを。

 自分の決めたその答えを出すことが、わたしやフェイロンやリーシン、他の周りの人たちへの誠意となるはずなのだ。

 わたしはリーシンに、正直な気持ちを伝えなければならない。

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