第八章 発覚7

「フェイロン!」


 わたしの呼びかけに、彼は最初すぐには気づかなかった様子だったが、ゆっくりと顔を上げてこちらに目をやると、その目を大きく見開いてみせた。


「メイリン……! どうしてここに……?」


 わたしは牢の鉄格子に駆け寄り、彼に言った。


「あなたのことが心配で、居ても立ってもいられなかったのよ!」


 フェイロンは立ちあがると、こちらのほうへとゆっくり近づき、牢屋の鉄格子ごしにわたしの正面に立った。


「フェイロン……」


 わたしは彼の姿を見て、思わず涙ぐんだ。とにかく今はまだ彼は無事なのだ。


「よくここまで来られたね。そう簡単にはここへは入れないと思っていたけど……」


 フェイロンはそう言うと、わたしより少し後方に立っている看守の存在に気づいたようだった。


「うん。だけど、なんとかこうしてここまで来ることができたわ」


 わたしはそう言ってから、看守のほうへと振り向き、彼に言った。


「ごめんなさい。少しだけ彼と二人で話したいの。なにも怪しいことはしないから、少しだけ離れていてもらってもいいかしら?」


 わたしがそう言うと、看守は少ししぶる様子を見せたが、おとなしくわたしに従ってくれた。それを見届けてから、わたしは言った。


「フェイロン。わたし、あなたに謝らなければいけないことがあるの」


 わたしがそう言うと、彼は小首を傾げてみせた。


「謝る? どうして?」


「だって、きっと今回のことはわたしのせい。あなたがこんな事件を起こして捕まってしまったのは、わたしがあなたについていかなかったせいだから……」


 すると、フェイロンは少し驚いたように目を丸くし、それからふっと力を抜いて苦笑を浮かべた。


「……メイリン。違うよ。今回のことは、なにもきみのせいなんかじゃない。全部僕が勝手にやったことだ。きみが僕と一緒に逃げなかったことで責任を感じているのなら、そんなものはお門違いだ。これは僕自身が一人で考えて選んだ道。なにも後悔なんかしていない。僕は僕が望んだことをやり遂げたまで。その結果こうなってしまったことも、それは仕方のないことだ。きみがどうこう思うことじゃない」


「フェイロン……っ。だけど、もしわたしがあのとき一緒に逃げていたとしたら……っ」


 わたしがそう言うと、フェイロンは自分の唇に人差し指をつけ、静かにという合図をした。


「メイリン。それはもう終わったことだよ。きみはあのとき、きみ自身でそれを選択した。そのことと僕の決心したこととはなにも関係ない。僕はきみがきみ自身の心で選択したことに、異議は唱えない。これから進もうとしているきみの道がどんなものでも、きみが自分自身で決めたことなら、僕はそれを応援する。それがきみにとっての本当の幸せだと思うから」


 フェイロンはそう言うと、鉄格子からすっと手を伸ばしてわたしの頭を一度だけ優しく撫でた。

 そしてくるりとわたしに後ろ姿を見せ、こう言った。


「さようなら、メイリン。今度こそ本当にお別れだ。どうか幸せに。きみの幸福を僕は心から祈っているよ」


 その後ろ姿を見て、わたしの目にぶわりと涙が溢れた。


「フェイロン! フェイロン……! わたし……!」


 彼を助けたい。

 彼に幸せになってほしい。

 そう思うのに、わたしにはどうしたらいいかわからなかった。


「メイリン様。そろそろ……」


 看守の声が後方から響いた。


「フェイロン……!」


 泣き叫ぶわたしを、彼はもう振り返ることはなかった。

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