第七章 裏切り1
自室で寝ていたわたしは、外が明るさを取り戻していくのをぼんやりと見つめていた。
結局夜は、ほとんど眠れぬままに過ぎていってしまっていた。
作戦は失敗に終わった。
その衝撃と落胆は、わたしの心に大きな鉛を落とした。希望は絶望へと成り代わり、すべてのことが色を失ってしまったかのように思えた。
作戦の情報が漏れていたと、リーシンは言っていた。
しかし、どこから漏れたというのだろう。
あの作戦は、ごくごく秘密裏に、あの館の中だけで練られたものだった。それを知るのは、もちろんあの場にいた人たちだけだったはず。
誰かが外で聞き耳を立ててでもいたのだろうか。誰かにつけられてでもいたのだろうか。いや、そんなはずはない。館に来るときは、周囲に充分気をつけていたし、ひっそりと佇む館の周りには、誰かが隠れられるような場所はなかったはずだ。
だとしたら……。
ふと浮かんできた考えに、わたしはかぶりを振った。
そんなはずはない。
そんなことが、あるはずがない。
わたしたちのうちに密告者がいるなんて、そんなことがあるはずがないのだ。
あそこにいる人物はみな、とても立派で高尚な精神を持っていた。この国の現状を憂い、それを変えていこうとしていた。
あの館に最初に訪れた日、わたしは彼らの熱い思いに感動したのだ。そんな人たちが裏切るなんて考えられない。あの中の誰かが作戦のことを外に漏らすなど、とても考えられないことだった。
きっとなにか手違いが起こったのだ。予想のできないなにかが、わたしたちの立てた作戦を失敗に追い込んだ。
そのなにかがなんなのか、説明はできなかったが、あの館に集まった人たちの中に裏切り者がいるという考えよりは、わたしには真実らしく思えた。
裏切り者などいない。
わたしはそれを心に言い聞かせるようにした。
昼間、わたしは中庭におもむき、橋の上から池の真ん中に浮かぶ蓬莱島を眺めていた。
理想郷は、やはり理想郷。
それはやはり手の届かないものでしかなかったのだ。
この国が抱える黒い部分は、容易に消せるものではなかった。どんなに磨いて綺麗にしようとしても、それは深く根付いていて、取りきれる類のものではなかった。
わたしたちが目標として掲げていた、民のための国造りなど、到底できることではなかったのだ。
はあと深いため息ばかりを漏らすわたしを、シェンインが心配そうに見つめていた。
「メイリン様。ご機嫌があまり思わしくないようですが、大丈夫ですか? そろそろお部屋のほうへ戻ったほうがよろしいのでは?」
「ううん。部屋にいると、もっと鬱々としてしまいそうだから、外にいたほうがまだ気が晴れるわ。それに、せっかく晴れているのだし」
今日の空は、晴れ渡って美しく透き通っていた。秋の風が吹き、筋状の雲が空に不思議な模様を描き出している。
「そうですか。それならばよいのですが、なにやらメイリン様は先程から気鬱な様子でしたので、少々心配になりまして」
確かにこんなにため息ばかりついていたら、周囲の人間にはいい迷惑だろう。わたしは自分の行動を反省した。
「心配をかけてしまってごめんなさい。少し思い悩むことがあって、わたしったらついため息ばかりついてしまっていたわね」
「いえ。メイリン様がお謝りになられるようなことはありません。そうですよね。婚姻の儀を控えて、いろいろとお考えになる時期でもありますからね。少し感傷的になられるのは当たり前です。わたくしのほうが、出過ぎたことを申しました」
シェンインはそう言うと、わたしに向かって深々と頭をさげた。
「いいのいいの! 本当に気にしないで。でも、またちょっとため息をついちゃうことはあるかもしれないけど。……そのときは許してね」
わたしはそう言って、再び蓬莱島のほうに視線の先を移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます