第五章 月との距離2
その夜、わたしはリーシンとともに会合のある館へと向かった。
そこではすでに、リューフォンさん、ユンバイさん、タオシェン将軍も揃っていた。
奥の部屋でみなが席に着いたのを見届けると、リューフォンさんが口を開いた。
「今日は、重要なことをみなさんにお伝えします」
わたしは真剣な顔でそう言うリューフォンさんを、緊張の面持ちで見つめた。
「もうすでに事前にお伝えしたかたもいますが、実は、例のことの証拠が、もうすぐ掴めそうなのです」
その言葉に、場はざわめいた。
「本当か? それは」
リーシンが言った。
「はい。しばらくの間、丞相の屋敷近くに密偵を忍ばせていたところ、国の金庫番である大司農に仕える下官が、丞相の屋敷の裏口から出ていくところを発見しました。その下官を見張っていたところ、国庫に頻繁に出入りをしていることがわかりました」
場がもう一度ざわめいた。
「しかし、国庫を護る衛兵は、丞相の手のものではない武官が手配したものたちで固められているはず。そう簡単に、国庫に立ち入ることはできぬのではないか?」
タオシェン将軍が言った。
「はい。そのとおりなのですが、敵も綿密な手回しをしていたようです。どうやら丞相は、国庫を護る衛兵たちに、かなりの賄賂を渡していたようです。中にはそれを受け取らぬ骨のあるものもいたようですが、そのものはすぐに上からの人事でよそへと送られていったそうです」
「徹底しておりますな」
ユンバイさんは、半ば呆れたように言った。
「そのあとの処理の仕方も、さすがに抜け目がありません。修繕費としてそこから引き出されたお金は、すぐには丞相のところにはいかず、まずは名目上の建物を管理する部署へと回されます。しかし、そこのものたちは、今年大規模な改修工事を予定していることなど知らされておりません。当然普段どおりの建物の修繕などに使う費用しか使われず、多くの余剰金は残されたまま。それを折りを見て、先程の下官が、余剰金を国庫に戻しにいくと言って、再び金庫を運びます。しかし、そのお金は結局国庫に戻ることはなく、最終的に丞相の屋敷へと運ばれていくのです」
それを聞いたわたしは、そのあざとさに呆れるとともに、その汚いやり口に、はらわたが煮えくりかえった。
「……汚い。私利私欲のために、そこまであくどい行為ができるなんて、信じられないわ」
わたしの言葉に、周りの面々も同意の声を上げた。
「本当に。国庫が汚れた手で荒らされているのを、黙って見過ごすわけにはまいりません」
「そうだ。こんなことは絶対に許してはならん。やつの首の根をつかまえて、すべて吐き出させてくれる……っ」
「金の亡者は、その座から引きずり下ろさねば!」
丞相憎きの声が、部屋全体に充満した。
「で、どうする? 横領の金の流れはわかったが、次にどう手を打つ?」
リーシンが問うと、リューフォンさんは少しだけ考えてから言った。
「現場を押さえて強硬な手を打ってもいいかもしれませんが、その場合、もしそれが失敗に終わったときが心配です。あのあざとい丞相は、すべての証拠を徹底的に隠滅して、横領の事実をなかったことにしてしまうでしょう。そうなると、再び彼の悪事の尻尾を掴むのは、容易ではなくなります」
「そうだな。新たな横領はしにくくなるかもしれないが、それまでにたんまりと溜め込んだ金で、やつはのうのうと暮らすことができる。それでは意味がない」
「はい。ですから、こういう手はどうでしょう?」
そうして話し出したリューフォンさんの妙案は、一同に驚きを与えていた。
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