第76話:南方蠢動3

 まあ、こうなるとは思っていましたけどね。


 「き、貴様!裏切る気か!!」

 「何を言ってるんです?あなたは」


 私達はとっくに裏切っているんですよ。本国の命に従わず、戦端を開いた時点でね。


 「……そ、それは本国の連中が我々の」

 「何を言おうと、本国の指示に従わず、和睦交渉を行っていた相手に我々が戦端を開いた、という事実は変わりませんよ」


 その時点で私達は後戻りなど出来なくなっているというのに。

 そう、勝手に本国連中の思惑をぶち壊して、本国を窮地に追い込んだ時点で私達にあった選択肢は二つに一つ。エルフと南方解放戦線の連合を打ち砕いて迅速に南方を鎮圧するか、それとも私達がブルグンド王国から離反するかのどちらかしか、ね。

 

 「そして、離反するとなれば私達単独でやっていくか、それとも少しでも生き残る確率を上げる為に彼らに降るしかなかったんですよ。お分かりですか?」




 ―――――――




 南方諸侯、正確にはその一部からの降伏を受け入れると決まった訳だが、「はい、そうですか」とすんなり行った訳じゃなかった。

 まず、最初に動いたのは反対勢力。

 当然じゃあるな。これまで戦ってきた相手を突然「受け入れろ」って言われても納得いかない奴は必ずいる。

 これがある程度、上層部の政治なんかに関わっているような者達ならそこはぐっと飲み込んで、背中にナイフを隠しつつ顔はにこやかに握手してみせるもんだが、南方解放戦線の連中がやってきた事は未熟なゲリラ戦にすぎず、テロ活動にすぎない。

 ……そうして、人の歴史から言えば、大抵の場合そうした感情的に納得いかない者がいる状態での和睦は内部分裂起こしたり、不満分子の動きがあったりして、悪化するもんだ。

 結果として、自分とカノンでそれを潰して回った。ティグレさんも「お前らだけに任せておく訳には」と言ってはいたんだが、二重の理由でやめてもらった。一つはもちろん、組織の顔となる人物が直接組織の一部を切り捨てるという行動に出るのは拙いと思った事。

 そして、もう一つは単純に殲滅力と移動力の問題だ。

 移動力はまあ、何とかなる。だが、殲滅力という点ではモンスターである自分やカノンに比べ、獣人族であるティグレさんはどうしても劣る。

 ゲームでなら獣人にも切り札的な能力というべきスキルがあって、配下の者達を活用するなんかで真っ向戦えたんだが……モンスター側のダメージも抑えられていたしね。それが現実に来てみれば、そんな便利な特殊スキルなんてものは綺麗さっぱり消え失せていた。

 逆に、モンスターの側の特殊能力、これまでゲームではフレーバーテキスト扱いされてたような能力まで大活躍ときたもんだ。

 そして、上限が決められていたモンスターのダメージは上限が消え失せた上、副産物まで生まれていた。例えば、カノン、巨鳥が音速を超えて低空で飛べばソニックブームが生まれるがゲームではそんなもん無視されていた。が、これが現実ではきっちりと発生した。

 まあ、多分これがティグレさんが実際に軍を率いるようになったら特殊スキルも発現するんじゃと内心期待してはいるんだが……。


 閑話休題。

 話を戻すが、当然ながら離反してでも諸侯に攻撃仕掛けようとした連中は一人二人じゃない。それらを逃がす事なく殲滅可能な戦力となればそれは自分やカノンの出番だ。そうやって、密かに離反した勢力を潰していた俺達は今、南方諸侯軍と対峙していた。

 何故、と思うかもしれない。

 けど、これは既に決着済の出来レースでもある……俺達と一部の諸侯にとっては。

 こちらへと実質的な降伏を申し出て来たラトム子爵はこうなる事を予測していた。


 『王国へ攻撃を仕掛ける事だけは納得出来ない者もいるでしょうし、苛政を敷いて強権で抑えつけていたような者は恨まれている事を自覚しているでしょうから降伏に賛成しないでしょう。おそらく、比率で言えば私達を一とするなら、それぞれ二、一だと思ってください』

 

 ただし、この内本気で戦おうとするのは恨まれていると自覚している一部の者だけ、それも上に立つ更に一部でしかないでしょう、とも。

 結果、切り崩しを進めたラトム子爵は最終的にほぼ半数を降伏受諾勢に引き込んだ。そして……。


 「裏切りだ!左翼が裏切ったぞ!!」


 と、こうなった。

 更に、最大数を誇っていた中央勢が最早これまで、と裏切っていた者達がまだ裏切っていなかった者達を説得し、或いは倒し……。

 残るは右翼のみ。

 しかも、事前に情報がダダ漏れではこちらは策を立て放題。

 完全に右翼を重包囲下に置き、これを殲滅した。


 「で、自分達の立ち位置を確保した、と……」

 「当り前ではありませんか。誰だって死にたくないんですよ」


 ……かくして、俺達は南方を制圧した訳だが……。

 このままだと彼ら南方諸侯の勢力がかなりの大勢力になりそうだな。そこをどうするかが問題だ。

 このままでは彼らの勢力に乗っ取られかねないから、ね。

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