第77話:南方蠢動4

 はっきり言おう。

 自分達にしてみれば本来自分達が帰る方法を確立出来れば、エルフや南方解放戦線所属の者達が新国家で権限を握れないという事態が起きようとも知った事ではない。

 大体、永遠に自分達がいる事は出来ないのだから、例え今権力を与えても、何十年後の将来、どうなっているのかなど面倒見きれない、というのが本音だ。もしかしたら、エルフ達が特権階級化して他種族が下に置かれているような未来だって可能性はゼロではない。

 だが、逆に言えば、未だ帰る事が出来ない現状で混乱してもらっては困るのだ。


 「という訳で一部は優遇しつつも、ある程度からは領地を一定割合で取り上げる、とするのがいいと思う」

 「なるほどな、『なんであいつらだけ』とか『先に降伏を打診した連中が』と連中の内部分裂を誘う訳か」

 「後はちょこちょことこっちで煽ってやれば、完璧だナ」


 「うう、三人共黒いよ」

 「真っ黒な会話だね。でも、仕方ないよ……」 

 「私事優先」

 「頼もしいですね~」


 女性陣の内、紅とマリアは引き気味なものの、ユウナちゃんは淡々と受け入れる姿勢で、咲夜ちゃんは割と好印象?な様子だ。 


 ラウム子爵ら南方諸侯達も自分達が実質的な降伏をした事や、ここで下手に内紛を起こしたが最後、自分達の首が物理的に危ない事は重々承知している。特に、ここで孤立したら我々だけでなくブルグンド王国側からも命を狙われる事になるだろう。いや、下手をすれば王国側から「今回勝手に戦端を開いた連中の首と引き換えに何卒」なんて事になりかねない。

 南方諸侯達には我々を降す事に失敗した時点で、選択肢は消えている。

 この為、彼らも領地をある程度削られる事は承知している。そうしないと旧南方解放戦線に所属していた者達が納得出来ないと。無論、今後予想される戦闘で功績を立てれば、それはきちんと評価して、加増もするという約束はしている。双方から裏切り者と看做される危険性の高い彼らはそれこそ命がけで働いてくれるだろう。

 で、ここで一足先に降伏してきた一部を優遇すればどうなるか?

 そして、最後まで抵抗はしたが、運悪く生き残った連中を奴隷扱いでそんな連中の下につけたら……。ああ、いや、それは余計というか露骨すぎるか。


 「……そうだな、むしろ丁重に王国側に送り返してやればいいんじゃないか?」

 「そうだナ。降伏しなかった捕虜として送り返してやろウ」


 ……二人共いい笑顔だなあ。

 分かってるんだな。送り返された連中がどうなるか。王国側の取れる方法は二つある。  

 一つは「あくまで王国に忠義を尽くそうとした」として、優遇する手。

 しかし、そうなると「王国からの指示に反して、戦端を開き、王国を窮地に追い込んだ」という点に関して処罰が必要になる。そして、この二つの賞罰の内、どちらが重いかと言われれば、後者の命令違反だ。前者はあくまで「命令違反して、国自体を窮地に追い込んじゃったけど、最後の一線は越えなかったよ!」という事にすぎない。

 果たして、これで無罪放免となるかどうかと言われたら、出来る訳がない。

 なにせ、命令違反しようが何しようが、功績立ててなくても降伏さえしなけりゃ大丈夫、という前例を作る事になってしまう。そんなもの認められる訳がない。

 となると、もう一つ。

 反逆者として惨たらしく処刑して、見せしめにするしかない。精々、有力貴族の子弟が混じっていれば、もしかしたら自害が許されるかもしれない、という程度でしかないが、そうした有力貴族がいたとして彼らも自分の立場を守る為にも「たとえ我が子であろうとも、いや、だからこそ王国に叛逆したならば厳罰を受けねばならない!」となる可能性が高い。

 そして、そうなれば降伏した南方諸侯らには逃げ場がなくなる。そうなれば、彼らには戦って勝つしか助かる道はない。

 

 「とすると、後は早く降伏したラウム子爵らは領地を削らないとか優遇処置を取って、後から降伏したのは領地削るのが妥当か」

 「そうだナ。それで『連中がいち早く裏切ったのは、事前に話がついていたから』とでも噂を流しておけばいいだろウ」

 「ついでに、そうした削られた連中の耳に入るように『旦那様も早く降伏していればよかったのに』とか陰口が流れるように仕掛けておけば完璧だな」


 そうして、南方諸侯達がブルグンド王国との戦いには自分達の領地と命の為に必死に戦うが、国内で旧南方諸侯勢という一つの巨大な勢力としてまとまらなければ問題はない。

 

 「……ついでにそういう気持ちになれるような雑草を生やすか、もしくはそういう花でも飾っておくか」

 「それはいいナ」

 「なら奴らの寝室か執務室に生えるカビ辺りにしとけ。それならまず分からん」


 植物というものの範囲は広い。

 確かにこっそり部屋の隅にでもそうした感情を増幅させる効果のある胞子をばらまくカビ辺りを目につかない陰に生やしておけば……。


 「降伏した奴らは半数、その内、最初の段階で降伏を打診してきた連中は更にその三分の一程度だ。南方諸侯雄の内、領地を完全保障するのは全体の六人に一人で、半数の領地は剥奪、三人に一人は生き残っても領地を削られるんだ。これで南方解放戦線にも納得してもらわないとな。いや、してもらう、というべきか」


 ティグレさんの言葉に自分とカノンが頷いた。

 

 「後はそうやって取り上げた場所の統治だナ。ここで失敗したら内乱になるゾ」

 

 カノンの言葉に溜息をつく。

 侵攻計画を練るアルシュ皇国、防衛計画に必死のブルグンド王国もだが、こちらもまだまだ仕事は多そうだ……。とはいえ、国家の存亡がかかっているブルグンド王国よりはまだマシだろうけれど。


 「……南方諸侯らが一定の勢力として残る以上、王国の現王?王女?の受け入れも考えないといけなくなるんだろうなあ……」

 「結果として寝返ったとはいえ、内心後ろ暗い気持ち抱えてる者もいるでしょうからね。逃げて来た友人の受け入れを希望する者もいるだろうし、そもそも南方の民にだって王国の民と仲良い者だっているだろうからそこら辺の受け入れも考えないと」

 「公式に受け入れた旨は当面出さないが、受け入れ自体はする方向カ?」

 

 こっち方面も面倒だ。

 受け入れるにしても王の取り巻きまで受け入れる事は出来ないだろうし……。


 「まあ、すまんが協力頼むわ……会議に持ち込む前に『俺らはどういう方針なのか、どう考えてるか』はまとめとかないといけねえんだ……」


 マリアちゃん達がいれてくれたお茶を飲みながら、自分達は頭を捻るのだった。

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