第75話:南方蠢動2

 世の中、理性で感情を制御出来る奴ばかりじゃなイ。

 常葉の言う事は正しかっタ。

 講和という名の、実質的な降伏を申し出て来た南方の貴族達がいタ。それを常葉は受け入れると決め、それを会議で通達しタ。そう、通達、ダ。ティグレさんと俺には事前にそうする事を伝えていたけれど、他の者には事後通達だっタ。

 時間がなかったのも大きイ。

 一刻も早く、俺達は南方から西方にかけてを統一し、王国を切り取る必要があっタ。

 俺達はアルシュ皇国とかいう国を信用していなイ。きっと、王国と同じく、落ち着けばこちらに攻め込んでくると思っていル。だから、少しでも早く統一しないといけないし、その為には降伏を求めて来た相手を取り込む事も重要ダ。

 けれド。


 「さて、諸君、どこへ行くのかネ?」


 理性で感情を制御出来る奴ばかりじゃなイ。

 南方諸侯達が正にそうダ。彼らは国の考えを理解しつつも、納得出来ず戦端を開いタ。

 そして、それは彼らだけじゃなイ。


 「分かってんだろ」


 そう、今、目の前にいる南方解放同盟の一部のよう二。我々の側でもそれは起きル。


 「わかっているとモ。その上で、問うんだガ」

 「戻らねえよ」


 やはりカ。


 「それより俺達も言いてえんだが……」

 「引くつもりも逃がすつもりもないヨ」

 「だよな」


 元軍人だった南方諸侯だって暴走しタ。なら、元はほとんど民間人だった連中の全員が我慢出来る訳ないじゃないカ。


 「悪いな。きちっと説明してくれたから俺らも意味は分かってんだよ」


 互いに全滅するまで戦う訳にはいかない事モ。

 下手に長引き続けた時の被害モ。

 アルシュ皇国の脅威だって説明しタ。

 けれどネ。それで全員が全員納得出来るなら私達の元の世界で泥沼の内戦だの戦争だのはもっと少なくて済んでるヨ。……こうして話している間にも連中は私の左右に展開しつつあるネ。


 「けど、あんた一人ってのはどういう事だい?倒せたなら見逃してくれるとでも?」


 本気で疑問のようだネ。

 まあ、知らなければ当然か。相手は武装した百人以上で、こちらは無手の一人なら普通はそう考えル。


 「いやいや、私一人で十分だからだヨ。片づけるのは君達だけじゃないしネ」

 「……そうかよ」

 

 ちょっとむっとしたかイ?でもネ……。


 「だって、ほラ。もう終わってるシ」

 「は?」


 彼らは最期に何が起きたか認識出来たかナ?ま、自分達がバラバラになる感覚なんて知らずに終われた方がいいと思うがネ。



 ―――――――



 「終わったヨ」


 そう声をかけると上から羽ばたきの音が聞こえてきタ。

 

 「紅(くれない)、別に知らなくても良かったんだゾ」

 「……多分、知らない方が後悔すると思うから。お兄ちゃんとカノンさんが何をやってるのか知らないままでいるのは」


 そこにいたのは鳥の獣人である翡翠改め紅(くれない)だった。

 

 「理解してくれとは言わン。だが、我々の代表として表に立っているティグレ殿にはこういう事をやらせる訳にはいかなイ。そして、俺も常葉もこの世界では人の形をしていてもモンスターなんダ。……ティグレ殿に代わりに表に立つ訳にはいかン」 

 

 トップが事情を知っているのはいイ。

 だが、自ら手を染めるのはよろしくなイ。まだ、裏切り者とかならともかく、このようなケースの場合、一歩間違えれば賛同者とまではいかずとも同情を憶えたり、理性で抑え込みはしたものの内心では彼らに共感するような者がこうした行為に反発する可能性があル。最悪の事態ともなれば、最後は粛清一直線ダ。 

 だから、手を汚さないといけないような事態となれば、自分達が手を汚ス。常葉とそう決めタ。


 「常葉の方はいいのカ?」

 「あっちはマリアちゃんが行ってるから」


 そして、自分達が決めたように少女達も何時の間にか自分達なりに決意を固めていタ。

 ……ほんの少し前まで、一人っ子だった自分は彼女の事を妹みたいに思っていたはずなのにナ。何時の間に、自分は彼女を一人の女性として見るようになっていたのかねエ……。 

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