第66話:南方の戦い1

 この世界には魔物とされる種族達がいる。

 いわゆるドラゴンやマンティコア、キマイラといった動物が変貌したような魔物、或いはゴーレムのような古代の道具の暴走、ゴブリンやオーガにリザードマンといった人型種族など様々だがそれらを人とするか魔物とするかの差は相当いい加減なもので、ある国では交流が為されている種族が、別の国へ行けば魔物扱いという事も珍しくはない。

 中には人族以外は例外なく奴隷扱いという国も存在する。

 もっとも、一部の学者はこう主張する。


 「そういう事にした方が彼らを駆逐するには話が早かったからだ」と。


 こうした中、特にゴブリン種族などは魔物扱いされる事が多い種族だ。

 ブルグンド王国でもそうだったが、反面、エルフや南方ではそこまで迫害を受けてはいなかった、というか、エルフ達の場合は互いに不干渉、南方の場合は王国への対抗意識からだったがゴブリン種族やオーガ種族なども大体は話が通じる。

 道に迷ったエルフの子供達をオーガが体に載せて、エルフの村まで運んできてくれたとか、盗みをやらかした流れのゴブリンをそこを地元とするゴブリン達が叩きのめして南方の村へと突き出したという話もある。

 要は彼らも迫害されてきた歴史があるだけに、自分達を差別迫害しない場所ではきちんと礼儀を守った方が生活しやすい、という事を知っていたし、わざわざ関係悪化させてまで人やエルフを襲って食うなどという真似をするよりも普通に狩りをして、調味料などを交易で手に入れて食った方が美味いという事を知っていたからだ。

 そんな彼らはだからこそ、人族の、ブルグンド王国の侵攻により強い危機感を抱いていた。

 だからこそ、彼らもまた王国軍とは争っていたが、それは彼ら独自の戦いだった。――これまでは。




 ――――――




 ドラゴン種族というのは数が少ない。

 元々長い寿命と高い能力を誇る彼らは生殖能力、繁殖能力が低く、加えてかつて彼らの内臓を用いた霊薬が開発された為に乱獲が為されたという事も大きい。

 如何に強い種族といえど、数が圧倒的に少ない彼らでも限界がある。

 例え、一体が人族の精鋭百人に匹敵するとしても、逆に言えば千人に襲われればやられる。そして、協力しようにも数が極めて少ないドラゴン達は十年二十年に一度の繁殖期以外は単独で暮らしており、互いが住んでいる場所も知ろうとしていなかった。

 故に、ほとんどは寝床でくつろいでいる所を狩られたり、一部の運の良いドラゴンが逃げ延びたりする程度だった。

 そうして、そんな逃げ延びたドラゴン達の一部がエルフ達の住まう大森林地帯やその西方にある山脈に隠れ住んでいたが、彼らもまた「お話」の末、協力する立場になっていた。

 

 『この時を待ちわびたぞ』


 そんなドラゴン達の一体が魔物で構成された軍勢を率いて南方で領主軍と対峙していた。

 なお、魔物のみで構成された軍勢なのはドラゴンも、あるいは他の魔物扱いされた種族達もいざ戦闘になった際に味方と敵の人族の区別がつくか自信が持てなかったからだ。そんな事を言われてそれでも「一緒に戦いましょう」と言える度胸は南方解放戦線の人族にもいなかった。

 さて、ドラゴンだが彼はかつて繁殖期に番(つがい)と巣を作っていた所を人族に襲撃され、番と我が子となるはずであった卵を全て失ったという過去があった。

 当人ならぬ当竜はやむをえず卵を見捨て、番(つがい)と共に逃げたものの、番(つがい)はその時負った傷が元で逃避行の途中で息絶えた。

 

 そんな彼の配下にはゴブリン弓兵団、オーガ重装歩兵団、コボルト軽騎兵団、オーク魔術師団といった部隊が配備されていた。

 実の所、これが一番各種族に向いた戦い方だった。

 体格が貧弱なゴブリンはだからこそ、というべきか投擲武器や射撃武器に活路を求めた。

 そして、人族と交流していた一部種族は機械弓をも発展させ、ことこうした細工物の分野ではドワーフにも劣らない手先の器用さを発揮した(鍛冶の分野では全く敵わないが)。


 オーガは言うまでもないだろう。ちょっとした巨人族というべき体格は平均して三メートルを超え、それを分厚い筋肉の鎧で覆っている。当然、彼らが武器を振るえば、人の構えた盾など構えた人ごと吹き飛ばす程の破壊力があるが、いかんせん彼らには金属加工技術がなく、振るう武器は切り出した木材を加工した棍棒程度だった。

 もっとも、これにはきちんと理由があり、彼らの体格とパワーの前では普通の狩りはそれで十分だったからだ。

 金属の鎧など普段の狩りでは重荷になるだけであり、また騒音にもなる。 

 棍棒とはいえ、それで殴りつければ普通の獣であれば十分仕留められる。つまり、わざわざ金属加工を発展させる必要がなかったのであり、だからこそ人族と衝突した時、彼らの筋肉の鎧を突き破って致命傷を与えらえる武器や魔法を備えた人族に駆逐されていった。


 コボルト達は頭部が獣であり、獣人に似ているが獣人達と異なり、その全てが直立した犬系の特徴を持ち、また小柄で、比較的大柄なコボルトチーフと称される上位種族であってもその体格は100センチ程。また一発でコボルトか犬系獣人かを見極めるのはその足の構造で、足が完全に犬の後ろ足と同じ構造となっている。だからこそ、大柄にはなりえなかったともされている。

 そんな彼らの最大の特徴は動物との会話能力。

 これによって彼らは狼や猪などを飼いならし、機動力を得て、獲物を狩り、遊牧民と同じ生活をしてきたが、生活圏が人族と被るからこそ積極的に駆逐されてきた種族でもあった。


 最後にオークだが、実は彼らは非常に魔法に長けていた。

 なまじ蛮族のような生活をしていた上、文字というものを持たないからこそ魔法を文書に残さず、親から子へと実技で継承してきた為に知られていなかったが、彼らはその優れた魔法の技があったからこそ生き抜いてこれたのであり、世間一般の人族が考えるような「ただ単に生命力が強いだけ」の魔物ではなかった。

 それを見た目と、必要なものを必要なだけ自然から分けてもらうという生活ぶりから魔物扱いされて駆逐されてきた種族だったが、その生活スタイルがエルフ達と合致した事もあり、大森林地帯では普通にエルフと交流も深い種族だった。さすがに見た目が違いすぎて恋愛まで発展するのは至極稀な例外だったが、それでもそうなった時祝福を受けられるぐらいには良好な関係を築いてきた。


 つまるところ、彼らもまた南方解放戦線の人族にはある程度わだかまりというか、人族に対する不信感があったものの、遂に大森林地帯にまで侵攻してきた人族の国、ブルグンド王国と戦って自分達の住む場所を守るという事に話し合いの結果、協力するぐらいにはエルフ達や獣人達とは真っ当な関係を築いていたとも言える。

 そうして、そんな彼らに武具がドワーフ達から提供された。

 これによって彼らの戦闘力は大きく跳ね上がったが、彼らは軍隊というものの活動も複数の種族で協力して戦うという事も経験がなかった。

 訓練の末、ようやっとある程度まとまった形になったのはつい先日の事である。


 『さあ、皆、これからは我らの住む場所を守る為の戦いぞ!侵略者共を追い払うのだ!!』


 大きな歓声が上がった。

 その前方には南方領主達からなる軍勢が隊列を組んでいた……。

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