第67話:南方戦線2

 ブルグンド王国南方諸侯軍。

 これに対峙するはEWUの魔物の軍勢。


 「ええい、恐れるな!所詮奴らは魔物ぞ!!」


 懸命に南方諸侯軍で新興貴族が声を枯らすも劣勢は否めなかった。

 

 対峙して早々に南方諸侯軍には動揺が走った。

 一部の国では魔物扱いではなく、国民扱いされているものの、ブルグンド王国では彼らは魔物扱い、人権などない。当然、魔物達も彼らを見れば襲ってくるのが当り前だった。

 そんな魔物達の軍勢だが、大柄なドラゴンが背後に控え、前衛に鎧と盾、槍で武装したオーガが配置。後衛にその他の魔物達がいた。


 『南方の奴らは魔物と結託したのか!』


 そう叫んで激昂した貴族もいた。

 もっとも大多数は「敵の敵は味方という形で一時的に手を組んだか?」と判断した。これまで南方解放戦線と魔物が共に戦う光景を見た事はなかったからだが、同時に魔物が武装しているという現実が彼らに対して何者かが武器防具を提供した事を意味していた。

 もっとも、疑念もあった。

 当り前だが、巨人種でもあるオーガにぴったりの防具や盾など人の都市には存在しない。一体どこからそれだけの武具を調達したのか、それが疑念だった。一時的な共闘を約束したにせよ、そんなにすぐに武器防具を提供出来る訳がない。

 普通ならば。


 『酷いスキルですよね、これ』


 この戦いの数日前、咲夜が呆れたように言った事を彼らは知る由もない。

 この世界に来て、妙な所でスキルが残っていた。

 咲夜の、ドワーフの持つスキルの一つに「大量生産」というスキルが存在する。

 これ自体は実の所、そこまで強烈なスキルではない。というか、上へ行けば行く程死にスキルと化すものの一つだ。

 ゲームではよく一旦レシピを完成させてしまえば、同じ物をボタン一つで生産可能というものがあるが、これはそんな一つ。ただし、【ワールドネイション】においてはこのスキルで作れるのは魔法などが一切かかっていない道具のみ。

 そして、このスキルで生産されたものは後々魔化も出来ない上、使わなくなったからとインゴットなどに戻す事も出来ない。

 つまり、序盤において数を揃えるのには有効だが、上位に行けば行くほどエンチャントされた魔法の武具防具が当り前の装備となり、大量生産された武器防具は自然とゴミになる。

 ポーション類も「大量生産」自体は可能だが、低レベルポーションに限定され、回復が追い付かなくなる。


 しかし、だ。

 現実となれば話は違う。

 無論、多少の面倒はあった。特に問題だったのがオーガの武器防具で、彼らの場合身長にかなりの差がある。身長三メートル弱の個体に合わせれば、身長四メートルから五メートルに達する個体には小さすぎ、その逆では大きすぎる。

 そういう点では他の種族は楽だった。

 結局、参戦したオーガ達を幾つかのグループに分け、三メートルから三メートル五十、三メートル五十から四メートルといった具合に五十センチごと着用可能なよう装備を作成した。それでも多少きつい、多少緩いという差は出たものの、そこは諦めるしかなかった。まずは数を揃えるのが大事だったからだ。

 素材の調達も大変だったが、こちらはこの世界の山脈に生きるドワーフ達の協力も得て、何とかギリギリ間に合った。

 完成したのがこの戦の四日前、そこから急ぎ常葉が蔦で梱包し、カノンがそれを掴んで空輸し、彼らに届けたのがこの戦の二日前。

 急ぎ武器防具を各自に配布し、準備が整ったのはこの日の朝だった。

 そんな事を知る由もない南方諸侯連合軍は動揺しつつも、しょせんは魔物と侮って激突した。


 最初に動き出したのはオーガ達だった。

 盾をどっしりと構え、ジリジリと前進してくる。

 戦と一口に言うが、最初から人族側も全力疾走する訳ではない。最初は歩いて距離を詰め、最後走って、敵陣へと突入するか、或いは待ち構えるかのいずれかだ。そして、今回、ブルグンド王国の軍勢は待ちに徹していた。

 大型の槍を構え、槍衾(やりぶすま)を形成していた。

 当初は盾を構えた一般的な部隊が前にいたが、その後方にいた彼らが前に出たのはやはり巨人であるオーガが距離を詰めてくる中、足を止めさせる為だったのだろう。

 残念ながら、それは裏目に出た。


 「ぎゃっ!!」

 「矢が…!?」


 オーガ部隊の後方から矢が飛来した。

 それは盾を持たない上、長大な槍を持つ為に動きの鈍い槍兵達にとって致命的な攻撃だった。しかも、槍兵の背後には剣と盾を持つ兵士が待機し、こちらの弓兵は更にその背後。


 「い、いかん!弓兵、前へ!撃ち返せ!!」


 混乱の中、慌てて弓兵が前へと出て、反撃とばかりに矢を撃ち返すも我先にと急ぎ前へと出た為に統一されていないバラバラの攻撃だった。

 そして、それはオーガの構える大型の盾にあっさり弾き返された。

 先手は魔物の軍勢が取った。しかし、戦いはまだ始まったばかりだった。 

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