第65話:王国の落日2
南方領主軍、EWUに対して攻撃開始。
この第一報が届いた時、ブルグンド王国宰相カペサ公爵は天を仰いだと伝えられる。
後世の歴史家は『おそらく、この時、公爵は王国の滅亡を確信した』としている。
―――――――
「という訳で、こんなもんが来た」
と、手紙をヒラヒラさせているのはティグレさんだった。
「まあ、簡単に言っちまえば、今の女王ってまだ十歳の女の子だからうちが滅亡したらせめてこの子だけでも亡命させて、って事だな」
一応、それ以外にも色々書いてはあるが、宰相とやらがわざわざ公文書とは別に信頼出来る家臣って奴に預けて持ってきたのはそういう事らしい。
ちなみに公的な書類の方は『今回の一件は南方に領地手に入れた連中の暴走で、王国は一切知らなかったよ!』って事なんかが書いてあった訳だが、「だからなかった事にしてくれない?」とか「だから改めて王都と交渉してくれない?」という事も書いてはあったが、そっちはあちらも期待はしてないだろう。何とかなると思ってりゃ、『万が一の女王の亡命』なんて打診してこない。
「気持ちは分からんでもないけどな」
「そうだナ」
「女王様って書いてるけど、それ以前に孫娘だから助けてやりたい、だっけ?」
その紅(くれない)の言葉に全員が黙った。
公式文書としての言い訳の手紙は城塞都市であり、仮首都であるボルトンに届けられた。急遽集められる全員が揃ってる場所で届けられ、開示された訳だが。
『随分とそちらに都合の良い話だけですな、使者殿』
なんてティグレさんも皮肉めいた言い方していたし、エルフ達も南方解放戦線の人達も使者を睨みつけていただけじゃなく、南方解放戦線の人達からは。
『ふざけるな!』
なんて怒号も飛んでいたな。
気持ちは分からないでもない。
『同盟を結びたい』、そんな手紙を送って来た早々に攻撃を仕掛けられたら、そりゃあ疑いたくなっても仕方ない。
もっとも、使者を一旦引き下がらせた後で、ティグレさんは「まあ、連中の言ってる事は事実だと思うけどな」とフォローはしていた。
実際問題として、ブルグンド王国に今、この時期にうちに攻撃を仕掛けるメリットは何もない。攻撃を仕掛ける、同盟を破棄するにしても全てはアルシュ皇国という強敵を撃退した後にすべきだろう。もし、そうだとしても今更どうしようもない話だが。
で、それが終わった後、使者から密かにティグレさん以外に自分に渡された手紙があった。
……まあ、目立ったからだろうね。
鎧をまとった獣人であるティグレさん、鳥の頭部を持つカノン。
そして、和服という他とは異なる服装をした人型をしている自分。
周囲がシンプルで森に溶け込みやすい緑系統で統一されている衣装のエルフ、南方らしい色とりどりの民族衣装をまとう南方解放戦線の人達の中で目立っていて、尚且つトップについていると思われるティグレさん以外、けれどティグレさんの傍に立っている自分かカノンに接触を試みたんだろうな。
その手紙を密かに七人のいる場所で先に開いている。
「それでどうするの?保護するの?」
ユウナが「保護してあげてもいいんじゃないかな?」と言いたげな様子で言う。
そういえば、ユウナには女王と同じ十歳の妹がいたな。
「ふむ、そこが悩ましイ。保護するという事は王国の正統な王家の血を保護するという事でもあル」
「表向きは死んだ事にして隠すにせよ、ばれたら凄い面倒なんだよね」
かといって、十歳の女の子を見捨てるのは……というのは女の子達の視線から分かる。自分達も気持ちは重々分かる。
加えて、カペサ公爵の書き方も上手い。女王を守る、というのじゃなく、あくまで祖父として孫娘には生き残って欲しい、という言い方だからだ。
「……ギリギリになって言い出しても受け入れてもらえないと思ったからだろうな」
「そうですね。こうして話し合う時間もないですし」
「密かに助け出すかどうかもあるしナ」
うーん、と悩む我々だが、その一方で各地では戦闘が始まっていた。
EWUでもまた、南方で戦闘が始まっており、そこでは新編成となった魔物もまた軍勢に組み込まれていた。
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