第62話:王国の危機
ブルグンド王国は激震に見舞われていた。
『アルシュ皇国勢、国境に集結中』
『南方及びエルフ勢、攻勢を強める』
この報が同時に入って来たからだ。
これで両者の動きが無関係だと考えられる程、王国上層部は気楽になれなかった。
(どうする)
そんな中、最も悩み苦しんでいるのは宰相たるカペサ公爵であった。
何せかかっているのは彼にとっては全てだった。
もし、ここで敗北すればどうなるか?
まず、現女王でもある孫娘の命が危うくなる。年齢が年齢だ、惨い殺され方はされないかもしれないが、希望的観測にすがる訳にもいかない。それに、助かったとしても待っているのは子を産む道具扱いとして後宮に実質的に幽閉される事になるだろう。
そして、自分は当然殺され、跡継ぎも失う。孫娘を助ける事は出来ない。
国を売れば、自分は助かるかもしれないが、それは孫娘を売るという事でもある。
ではどうする?
手段として考えらえるのは幾つかある事はある。
理想は双方の撃破だろう。
例えば、皇国方面は防衛に徹し、その間にエルフ&南方勢力を撃破。
返す刃で皇国を打ち破り撤退に追い込む……。
理想だ、だからこそ無理だと言わざるをえない。
少し前ならそれも可能だったかもしれない。だが、おそらくはエルフ側に強大な戦力がついた。それは騎士団一つを平野部という本来騎士団の戦力を一番活かせるはずの場所で殲滅するほどの何か、だ。生憎生存者がゼロである為にそれが何かは分からない。
そう、ゼロだ。
誰一人生きて帰る事すら出来なかった。
無論、一回しか使えない何かという可能性もあるが、そんなあるかどうか分からない可能性に賭ける事は出来ない。
では逆に皇国側を撃退するか?
皇国に専念出来るならそれも可能だろうが、もし、アルシュ皇国とエルフ&南方勢力が同盟、もしくは協力体制を築いたら……?そうなれば、アルシュ皇国側に戦力を向けた所で、南方及び西方から散々に国内を荒らされる事になるだろう。それは皇国との戦線に兵を派遣している貴族達の動揺を招き、軍の崩壊を招きかねない。
となれば、現実的なものはやはり、どちらかの勢力との和睦だろう。
(だが……)
アルシュ皇国は厳しい。
ブルグンド王国独立時の関係で元々仲が悪かった事もあるが、この数百年の間に大規模な戦いも幾度も起きて来た。もはや、王国側も皇国側も一定以上の規模で憎しみを募らせている勢力が存在している。今更和睦を提案した所で皇国側が受け入れるとも思えないし、それどころか議題に上げたら自分が暗殺される可能性も十分にある。
重要会議に出られるような立場の重鎮達の中にもアルシュ皇国との徹底抗戦派は混じっているだろう。
と、なればエルフ達、ひいては南方との和睦。
はっきり言えば、こちらも厳しい。まだエルフ達はいいだろう、大森林方面は攻略を開始したばかりであり、実質的な交戦もまだ端緒についたばかりだった。
問題は南方だ。
こちらはブルグンド王国はそれなりに長い時間をかけ、幾度も小規模ではあれど激しい戦いを経て、やっと制圧した。そこを放棄するとなればそこに新たに領地を得た者達の不満も溜まるだろうが……。
「それが一番現実的か」
深い溜息をついた。
少し考えただけでも困難な事は幾つもあるが……王国上層部に位置する者達もどこかで損切りをしなければならない事は理解しているはずだ。
しかし、最悪内乱も……。
「それでもやらねばならん」
正に王国は今、存亡の危機に瀕している。
南方を制圧した、そう思えた時にはこんな状況は考えもしなかった。全てはエルフ達との本格的な交戦を開始してからだ。それから急激に状況は悪化した。
派遣した軍勢は壊滅。
城塞都市ポルトンは制圧された。
王都駐留の精鋭騎士団を丸ごと一つ殲滅され、これを好機とばかりにアルシュ皇国が全面侵攻を開始しようとしている。
「我々は敵にしてはならぬ相手を敵にしたのかもしれんな……」
だが、今更なかった事には出来ない。
ならば、今の状況から少しでも良い一手を探るのみ……。
ブルグンド王国を救う為、カペサ公爵は動き出すのだった。
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