第60話:国となるために3

 国の体制は少しずつだが固まりつつある。

 代表は現在、一時的にだが常葉が務める事になった。現状では、王国からの暗殺を警戒せねばならないし、下手にどこかの部族の長なりをトップに据えるとそれはそれで角が立ちかねない。それぐらいなら、植物の精霊王たる常葉がトップに立つのが今の状況では最も安全であり、角が立たないという訳だ。

 将来的には実績でトップに立ってもらわねばならないが。

 もちろん、それ以外にも。


 『下手な奴がトップに立ったら、仕事が面倒になりかねないしな』


 というティグレの言葉が象徴してもいるように、七人にとっても意味はあるのだが。

 ……さて、体制は固めた。

 首都は現状選択の余地がない。エルフ達の領域で都市と呼べる規模のものはポルトンだけだ。現実にはエルフ達の大半は未だ森の中に暮らしているが、他に他国の使者を招けるような場所は存在しない。これは南方も同様で小国家群ばかりだった為にいずれの都市も精々男爵領のそれが精々、ポルトンの規模には及ばない。そこはさすが大国と呼ばれるブルグンド王国が力を入れて建築しただけの事はある、という事だろう。

 本来なら首都となる場所への道も作らねばならないが、そこは常葉の力ですぐに覆われた街道を復活出来るという事から隠されたままだ。

 そもそも街道が破壊されるのも最大の原因は植物であり、彼らが破壊しないのであればそこまで酷い事にはならない。


 「産業に関してだが……」

 「そちらに関しては順調な部分とそうでない部分の差が激しく……」


 国にとって重要な収入。

 今はまだいいが、将来的には重要になってくる。

 まず順調な部分。

 これは薬草栽培と鉱山開発、それによる産物の開発だ。

 元々、森の中には豊富な薬草があった。これらを使った各種の薬の作成を行う事で、国としての産物としようという事だ。その為に、薬草栽培なども行われているがこちらは順調だ。栽培困難とされてきた薬草だって栽培する為の条件を常葉が教える事が出来るんだから反則だ。

 この薬草が栽培出来なかったのは何故か。

 必要な栄養は何か、植物が成長するのに何を求めているのか。

 これらが分かれば、栽培は大分楽になる。

 逆に問題となっているのはこれらを用いた薬の大量生産体制。

 これまで各部族において薬師とは一子相伝の技術であり、互いの部族はおろか、同じ部族の中でさえ情報の共有や記録を残すなどという事は行われてこなかった。

 これを一部の秘伝はともかく、多数使う傷薬などは新たに支配地に収めたブルグンド王国の薬師や、南方の薬師とも情報を共有し、より効率的な薬へと変えて行かねばならない。これだけでも相当大変な事だ。まず、薬師を一箇所に集めるだけでも大変だった。各部族達にとって薬師というのはある種の特権階級であると同時に、不可欠な技術職でもある。いきなりそれを「取り上げる」という事には反発が生じる。

 薬自体を取り上げる、と判断されかねないこの行動だったが、事情を説明した上でまずは後継者たる若手を集める事から始める事で反発をある程度抑えつつ、実行されつつある状況だ。


 鉱山開発だが、こちらは大森林地帯の向こう、山脈に住むドワーフ族達の協力を得た事で順調に進みつつある。

 というのも元々ドワーフ族は各国の動きに対する危機感を持っていた。

 彼らがこの地に隠れ住んだのは彼らの持つ技術を人族が求めたからだ。ただ求めただけならばまだしも、人族のそれより高い技術を誇ったそれを奪おうとした。

 もっとも、大半のドワーフ族はそれを嫌い、山岳地帯に隠れ住んだ。

 ドワーフ族は鉱石や鉱物を喰らう事が出来る。

 だからこそ、彼らは穀物を作る為の畑や、食べる為の家畜を飼う場所を必要とせず、山岳地帯に隠れ住む事が出来たし、鉱物由来の毒も彼らには影響を及ぼさない。一酸化炭素といった人族の鉱山では致命的な空気も彼らは平気で活動する事が出来る。

 植物や動物由来の毒は効果ある訳だが、こうしたアドバンテージが彼らが山岳地帯に国と呼べるほどの都市を作れたと言える。

 とはいえ、彼らも鉱物を喰えるとはいえ、植物由来の食事が嫌いな訳じゃない。エルフ達とはもちつもたれつでやっていたが、王国の森への侵攻にやきもきしていたのも事実だった。なにせ、大森林地帯が制圧でもされたら、次は彼らの番だからだ。

 そして、鉱山と優れた金属加工技術を持つドワーフ族の組み合わせは人族には垂涎の的だろうという事も理解していた。

 だから、だろう。

 こちらの様々な種族による連合による国家を立てて、人族に対抗するというプランにすんなりと乗って来た。どうやら、彼らの危機感はエルフ達より遥かに大きかったようだ。まあ、彼らの場合、エルフ族と異なり、実際に人族に襲撃され、監禁されて技術を奪われた者達、奴隷のようにこき使われた者達もいた、って歴史がそうさせるのかもしれない。

 なにせ、そういう状況から逃げ出して、この地へと逃げ延びた、って者もいたからな……。ちなみにドワーフ族もエルフ族ほどではないが、寿命が凄く長い。なので、当事者がまだ生きていたのも大きかった。


 かくして、ドワーフ族からは自治領として扱う代わりに国に協力し、代わりに余剰分の鉱石やこれまで密かに流してきた武具の類を正式に卸してもらう、という事で話がついた。

 まあ、自治領云々は要は「これまで通り」って事だ。

 武具なんかはこれまでは密かに一部の口の堅い商人なんかと持ち込む形で取引していたらしい。

 何故そんな事をしていたのかと聞けば……。


 『そりゃおめえ、使われない武具なんて何の意味がある』

 『使ってみて、感想聞かなけりゃ、武具が可哀想だろうが。使われずに飾られるだけの武器なんて哀れだ』

 

 という返事が返ってきた。  

 

 「という訳で、現状一番確実なのが我々の側ではドワーフ族の武具と鉱物ですね」

 「果実や野菜の部類なら提供出来るのですが、これだけだと国内需要賄うので精一杯になるでしょうね」

 「薬なら作り置きがききますからなあ……」


 国の運営に関する話し合いはまだまだ続く……。

 ただし、物語は別の流れに続く。

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