第59話:国となるために2

 アルシュ皇国、及び諸島連合からそれぞれに返答があった。内容は……。


 『現状、その方らを国家として認める事は出来ない』


 というものだった。

 元より、最初から「分かった、認めよう」なんて返事は期待していなかったので予想通りだった。


 「だが、この【現状】って部分が大事だ」

 「将来的には分からないよ?と含みを持たせた解答と見る事も出来ますからね」

 「というか、わざわざそんな言葉を入れてる時点でそのつもりだロ」


 単純に拒絶するだけなら「そんな事を認める事は出来ない」とだけ言えば済む話だ、と口々に語った事でエルフの出席者達も「なるほど」と頷く。もっとも彼らの場合、「そういうものなのか」と思う部分も大きいのだろうが……。

 さて、そう仮定するとなると……。


 「まず必要なのは何だと思う?」


 敢えてティグレはエルフ側にそう声をかける。

 何人もが困惑すると同時に悩む中、一人が口を開いた。


 「一つではありませんよね?」

 「まあ、そうだな」


 確認した後、当人はどこか躊躇いがちに「実績、でしょうか?実際に国として認められるぐらいの」と言った。

 それを聞いた別のエルフから反論が起きる。


 「いや、実績とはどういうものを言うんだ?既に我々は……まあ、実際にやったのは我々ではないが騎士団を一つ壊滅させたぞ?」

 「可能性としては二つじゃないかな?ブルグンド王国側にも認めさせるか、それとも滅ぼすか……」

 「いや、その前に国としての体裁を整えるべきじゃないのか?法とか、お三方に頼らない形での軍とか……」

 「政治の形も決めねばならんぞ。王政なのか帝政なのか共和制なのか議会制なのか……議会制ならどういう形で議員を選出するか、という事が必要であろうし」

 

 それを機に口々に意見が飛び出す。

 そして、口に出せば出す程、国として認めてもらう為にはやるべき事が一杯あるのだとそれぞれが自覚する。と、同時に三人からすればこれまで色々教えてきた事が彼らにきちんと浸透している事にほっとする。来た当初のエルフ達ならこんな事すら思いつかなかっただろう。純粋に知識がなかった為に。

 

 「……こうしてみると、国として認めてもらうにはまだまだ足りないものが多いですね」


 そう元大部族の族長の息子エルフ、現族長となったエルフが溜息と共に呟いた。

 ここにいるエルフたちはいずれも比較的若いエルフ達だ。旧来のエルフ達は極一部を除き自分達にはついていけないとあるいは引退し、あるいは引退させられ、あるいは消された。千年余も部族単位の生活を続け、その生活がこれまでも続くだろうと思っていた彼らは自分達の世界が変わる事を受け入れる事が出来なかったからだ。

 無論例外もいる。


 「一つ一つ片づけいく、というのが本来の道なんじゃろうが、時間が足りんな」


 そう口にしたのはそんな例外の一人、長老の一人でありながら変わろうとする世界に興味を持ち、積極的にかかわる道を選んだエルフだ。

 

 「まあ、最優先で決めにゃならんのは国家の代表じゃろう。それから王国とかそういうのでいえば大臣とかそういうのに相当する各部門の責任者じゃな」

 「……私ら部族の長にそこら辺の責任任せて、個人個人で勝手にやってましたからねえ」

 「部族の長だって、たいした事はしとりゃせんよ。精々、部族内の揉め事の時に代表やっとったぐらいじゃ。でかい部族ならそこに長老達が加わってたぐらいでの」


 逆に言えば、その程度で済むぐらい大森林地帯のエルフ達は平和に過ごしてきたとも言える。

 これがもし、エルフ達の内部で激しい争いを繰り広げた歴史があったのなら、あるいはどこかの部族が統一を目論んでいたのならば、エルフ達も生き残りをかけて部族同士の合併などを繰り返し、王国とでも呼べるものを築き上げていただろう。

 しかし、彼らはそうではなかった。

 大森林地帯は豊かであり、そこにはエルフの多数の部族が、魔獣達が共存出来るだけの余地があった。

 だからこそ、彼らは細かな争いこそあれど、大きな争いもなく、結果として国としては成立しなかった。ただし、互いに相争う事がなかった為に部族間で憎しみが多々発生するという事もまたなかった。だからこそ、人族が侵攻して、それに対抗する為に強引にまとめあげる手法を取った時にも対立自体はなかったのは幸いだったと言える。

  

 「後は最低でも国の顔じゃな。交渉役を統一させんと毎度毎度コロコロ変わっておったら相手も不信感持つじゃろう」

 「肩書も重要ですね。今回はまだとりあえず、ですからまだしも、今後を考えると……」

 「人族って肩書とかそういうのを重視するんでしたっけ?」

 「ああ、何もない場合は下っ端が相手して終わり、って事になりかねん。上の者に応対させるにはそれなりの大臣とか代表といった肩書がいるんだ」


 当然、これらに関しては解放戦線とも話し合いをしなければならない。

 やる事はまだまだ山積みだった。そして。


 「ブルグンド王国が何時までも今回の話を察知しないとも思えん。……その前にもう一戦、大規模なものは覚悟しないといけないだろうな」


 そして、場合によっては王国を滅ぼす事も考えなければならない。

 そうティグレが締めくくった。


 

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