第52話:歪なる心

 「騎士団が丸ごと一つ南方に派遣される」

 「こいつを黙って行かせる腹はない」


 虎の顔をした男が呟くように言う言葉に残る二人。

 葉の生えた枝を角のように生やした男性と、直立した鳥にしか見えない男性が頷いた。

 今、この場にはその三人しかいなかった。


 「これを叩くのを二人に頼みたい」


 虎はそう言った後、どこかすまなそうに言った。


 「悪いな。一対一なら俺がやるんだが」

 「仕方ないですよ。これは向き不向きの問題です」

 「そうだナ。正規軍の騎士団丸ごと一個を今の南方に行かせず、それを潰せる力が俺達にはあル」

 「だったら、それでいいじゃないですか」


 


 ――――――



  

 そうして、自分達はここにいる。

 

 「そこの二人!現在、この街道を騎士団が急行中である!直ちに道の横に避けろ!!」


 騎士団の先駆け。

 自分とカノンが街道のど真ん中に立っているから、わざわざ言いに来たんだろう。

 ああ、そうだろうね。

 今回派遣された正規騎士団はかなり急いで行動している。当然だろう、彼らは南方の動揺を抑え込む為に派遣された。そうして現状、彼らの到着が遅れれば遅れる程、南方解放戦線は自由に動く事が出来、南方の動揺は大きなものになる。

 駐留していた軍勢、現地貴族の部隊は大きな損害を被った。

 こうなると、現地貴族達は下手に軍を結集出来ない。自分の手元から軍事力を手放して、あるいは減らしてしまえば自分達が各個襲撃される危険がある。

 彼らも分かっている。自分達が現地の住人達に恨まれているって事ぐらいは。なにせ、ただでさえ征服した側なのに、彼らは南方攻略で功績を立てた者達。すなわち、彼らは南方の住人達を斬り殺して、それを功績として貴族に取り立てられたた当事者なんだから。

 当然、王国の威信が揺らいだこの状況に彼らは震え上がり、手元から残った兵力を手放そうとしなくなった。

 そうなると、南方総督、南の責任者である官僚、の手元にあるだけの戦力では到底南方解放戦線をどうにかするには足りない。そして、怯えているのは総督当人も同じ事。

 つまり、南方解放戦線が自由に動き回れる状況が揃っているという事。

 

 「お断りします」

 「断ル」

 

 自分達の言葉に騎士はむっとした顔になった。

 だが。


 「我々は王国の民ではない」

 「エルフが呼んだ味方なのでネ」


 そう告げてやると顔色が変わった。

 下手に勘違いして向かってこられても面倒なのですかさずカノンが騎士のすぐ横に風の刃を放つ。大地に刻まれた傷に騎士の顔が引きつった。そうだろうね、この状況で彼が突っ込んでくるより、武器を弓に持ち換えている間に自分が死ぬ。それが分かったんだろう。自分が警告された事も。

 本気で殺す気なら、さっきの一撃で首を飛ばしている。

 慌てて、馬首を返して、騎士団へと戻っていった。きちんと訓練されてるようだ。そうだね、下手に怒って手を出して返り討ちにされたら後方の本隊に情報が伝わらない。斥候はむやみと冒険、という名の戦闘をしてはいけないんだ。だって、どれだけ「勝てる!」と思っても、万が一があるんだからね。


 「久方ぶりだな」

 「ああ、久方ぶりダ。そしテ」

 「「実戦での本来の姿を試す(ス」」


 自分とカノン、二人の本来の姿は目立つ。そして、威力が大きい。

 そんな力をそこらで好き勝手に振るう訳にはいかない。

 

 「これから行うのは殺戮だ。それは分かってるんだが」

 「ああ、そうだナ。なのに興奮している自分がいル」


 二人で笑う。

 どこか歪んでいると自覚しながら。

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