第34話:ポルトン攻略戦3
「あ、が……」
「うふふふ、ああ、いい色です」
城塞都市ポルトン、その城壁の上で一人の着物を纏った少女が刀を手に佇んでいた。
たった今、兵士長と呼ばれる一人の男を血の海に沈めた彼女は月明りの中で哂っていた。ちょっと怖い。
ポルトンの防衛に特大の穴が空くまでにそう時間はかからなかった。というのも、城塞都市内部の人々と、スラムの住人の対立が急速に過激化したからだ。
なにせこの状況を変えるとなれば方法は一つだけ。食料問題を解決するしかない訳だが、それは無理難題としか言いようがない状況。
道は森に埋もれ、かろうじて維持されていた商隊も途絶。
刻一刻と都市内部の食料問題は悪化し、反面スラムの住人は食料を手に入れるのが困難になり、だが彼らは飢えている様子はない。これでスラムの住人に疑いの目が向けられない方に無理があるが、スラムの住人達はそれを理解していても自分達が飢えない為にエルフ達からの食料提供を断る訳にはいかない。
亀裂は拡大を続け、やがてスラムの住人達が兵士も混じった街の住人から襲撃を受けるようになるまでそう時間はかからなかったし、そうなれば後は坂を転げ落ちるように事態は悪化。スラムは自分達を守る為にもエルフ側へ味方する事を決めざるをえなかった。
そして、スラム街の住人達というのは最後の手段として、内部に侵入する為の極秘の通路の一つや二つ確保しているもんだ。
……特にこの世界だと城壁の外で彼らは暮らしてるからな。本来都市内部に大扉が閉ざされている時に入り込むのは違法だと分かっていても、逃げ場がなくなればそこに逃げるしかない。そんな裏道を今回は利用させてもらった。
「くそっ、奴らを排除しろ!!」
「無理です!!数が……っ!」
敵だってそんな誰もがそれなりの使い手という訳じゃない。通常の兵士相手なら我がゴーレム軍団で十分すぎる。
ザム!ザム!ザム!
全部自分一人でまとめて動かしてるから当然なんだけど、兵士達に比べて圧倒的に統率が取れた動きをしている。
そして、場所は城壁の上。回り込んで側面から攻撃なんて事も出来ない。
もちろん、それだけじゃなく、既に城門は制圧され、そこから続々とゴーレム軍団が整然と行進して入り込み続けている。だからこそ、彼らは城門を何とか奪回しようとして、やって来た訳だ。地上からだと既にゴーレム達を突破して城門を閉じる機構まで到達する事は不可能と見て、精鋭を選んで城壁の上から回り込んできた。
けど、それもカノンの偵察で動きが丸見えなら意味はない。
現在の戦いは大通りを行進してゆくゴーレム達を正規兵達が必死に食い止めて時間稼ぎをしつつ、何とか城門を奪回、という所だが……こちらからすれば攻撃開始に先立って内部へと潜入していたティグレさん達が現在、迂回しつつ城へと進行中だ。
今回の目的は領主らを抑える事が目的。
殲滅するなら、カノンの攻撃で一気に!って所なんだけど、カノンはいってみれば地上攻撃機であり、爆撃機だ。地上の拠点を制圧するのは向いていない。いつの時代だって、城なんかの拠点を制圧し、敵のえらい人を捕まえるのは歩兵の役割だ。
ゴーレム達は一つ一つはそこまで強くなくても、数を揃えれば命を惜しんだり、脅えたりしないだけに使い勝手はいい。
そんな中で一際目立って暴れているのが我が娘、というべき桜華(おうか)。
武骨な鎧で身を固めた歩兵という外見のゴーレム達の前に、この世界の一般的な服装とは異なる和風の着物をまとった小柄な美少女が、これまた一般的な剣とは異なる刀を持って立っているんだから、そりゃあ目立つし、周囲とは明らかに異なる姿に指揮官クラスか?と判断して突っかかって来る者も多かった。
多かったんだ。
「あら、遅い」
斬!ぎゃあああ!
「片腕斬られたぐらいで泣かないで下さいな」
斬!あぎゃあああああ!
「ほら、反撃しないと。両手がなくなっただけじゃありませんか」
斬!たっ、助け!
「はあ、ほら、もう足一本しか残っていませんよ?」
斬!あが、ああああ……。
「はい、つまらない相手でしたね。次どうぞ」
……まあ、そんな光景を一人二人と見せつけられちゃ、そりゃあ怯えるのも無理なかろう。
最初は「娘、悪いが敵である以上排除させてもらうぞ!」と悠然と強者ぶって出て来た者とか「貴様っ!よくも隊長を!!」と怒りに燃えて向かってきた者もいたんだが、さすがにそんな光景を連続して見せられたら足も鈍る。それでも桜華は自分が最初に言った事をきちんと守って、時間稼ぎに徹しているというか自分から積極的に斬りこんだりはしていない。下手に斬りこんで敵が崩壊したら厄介だと考えているんだろう。統率を失って、てんでんバラバラに逃げ出されたら面倒な事になりかねないからなあ。
このまま時間切れまで粘ってくれれば。そう思ってたんだが。
「いやあ、お嬢ちゃん強いなあ」
「あら、お次はあなたでしょうか?」
兵士達の中から一人の男が前に出て来た。
その青みのかかった肌と筋肉の鎧に覆われた体を見れば一目瞭然。魔人族だった。
魔人族。
別に邪悪な種族でも何でもなく、膨大な魔力を持ちながらそれを外部に放出する事が出来ない種族。彼らはそれを自らの身体強化魔法に用いる。身体強化は自分自身の肉体を鍛えねば意味がないから、彼らは自分自身の体を、技術を鍛える。
基本、「俺より強い奴に会いに行く!」な武闘派種族なので傭兵なんかを好んでやってる連中なんだがまさかここで出会うとは。
前回の戦での雇われ連中の中には見かけなかったのはやっぱり数が少ないとか、集落を離れて放浪してるようなのは腕が立つ分お高いとか、そういう話なのかもしれないな。
「今度は俺が挑戦させてもらいてえんだが、構わねえか?」
「ええ、挑んでくる人は大歓迎よお」
とか考えている内に、二人が戦おうとしてるよ!
魔人族の構えるのは普通サイズの剣が二本。大柄な彼の体だと小剣にしか見えないな。桜華が小柄で刀が細身だから余計に……。
「さて、それじゃあいざ尋常に」
「勝負と参りましょう」
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