第33話:ポルトン攻略戦2
城塞都市ポルトンは混乱していた。
当然だろうね。
ただでさえ食料が不足していた所に加え、この森の状況だ。結果として、多数の戦力が外への見回りや警備という形で街の外へと出ていた事で戻れなくなっている。
馬に乗って原始林を移動するってのがどれだけ難しいか分かるだろうか?人の足でも、きちんと手入れされている里山ならともかく、まともに手入れされていない道のない場所を歩くというのがどれだけ困難を伴うか理解出来るかな?
ましてや、急に森になった為にどっちへ進めばいいかまともに分からず、水や食料をどうやって得ればいいのかも分からない。
せめてもの手段は太陽や月を見て、方向を知る事だが鬱蒼(うっそう)と茂った森が上空を覆い隠し、方向を見失わせる。そして、食べる物にした所で普通の騎士や兵士に森の中で取れるどれが食べられる物かなんてほとんど分からないだろう。当然、水場がどこにあるかもだ。
そうして、彷徨えば彷徨うほど体力を喪失していく。
下手に茸や木の実なんて食べたら、お腹を壊したり最悪死ぬ。お腹を壊すにしたって軽く考えちゃいけない。だってそれは動けなくなるとか、体の水分を出してしまうといった事と同義だからだ。最低でも体力の喪失は大きなものになる。実際、既に幾人もの騎士や兵士に死者や見捨てられた者が……。
……くそ、奇妙な気分だ。
必要な事だと冷徹に叫ぶ声があると同時に、これで良かったのかなと気まずいというか気落ちする自分が同時に存在してる。
しかも……段々と前者の声が明確になっているのが分かる。そして、それはいけないと思う声もまた存在している。
……ティグレさんやカノンも同じなんだろうか?
「その癖、こういう事もしてるんだしな」
スラム街の住人達と街の衛兵、住人達との間が険悪になって睨み合いが発生している。
原因は単純、街の人達がスラムの住人達が襲撃者達と結託したと思い込んだせいだ。
『お前らが食ってるのは奪われた食料じゃねえのか!?』
『お前ら、奴らと手を組んで美味しい思いしてやがんだろう!?』
性質が悪いと我ながら思うのは、これらが事実だからだ。
もちろん、スラム街の人達にも言い分はある。内心で事情を知る人達は『じゃあなんだ!俺達に大人しく死ねって言うのか!!』ってなものだ。でも、それを言えば、自分達が商人を襲撃している者達と本当に繋がっているという証拠にもなる。誤魔化すしかない。
けど、当のスラムの住人からすれば「そもそもはお前らのせいだろうが!」という怒りが内心で溜まっていくだろう。
そして、世の中どこにでもそういう奴がいるが、本来疑うならば疑いをかけた側がそれを証明しないといけないんだが、疑いをかけた相手に証明しろと要求し、それを拒むと相手を批判する連中がいる。やっていないなら、やっていないという事を証明しろ!って事だが……そんな事出来る訳がない。自分達の世界でも例えば、UFOなんかが分かりやすい。
『調査しましたがUFOが存在するという証拠は見つかりませんでした』
『そんな事はない!お前らが隠してるんだろう!!』
そう言われたら、どんなに口を酸っぱくして「本当に調べたけど見つからんのだ!」と叫んでも、信じない奴はまず信じない上、本来証拠とは呼べないレベルの写真なり文書なりを提示してさも「自分達は正しい!悪いのは奴らだ!」という流れを作ろうとする。
ない事を証明する事は出来ない、「悪魔の証明」という奴だ。
逆に、存在しているならそれを証明して見せれば済む。「白いカラスなんかいない!」という相手には「はい、白いカラス」と示せばそれで済む。
だけど、今回の場合は本当は存在している事を、ないとしらばっくれないといけない。
(何時かはそう言いだす奴がいた、時間の問題だ)
自分達がやった事は簡単だ。
『スラムの奴ら街で食い物買ってる様子ねえのに、何であんな元気そうなんだ?』『どこでメシ手に入れてんだ?』なんて声をカノンの力で風に乗せただけ。
それだけで思うように踊って、疑問は疑いに変わり、こうして衝突寸前の状態になっている。
それどころか。
『スラムの奴ら、そいつを商人達に売り戻して差額儲けてるらしい』
『奴ら腐りかけの代物を俺達に売ってるそうだぞ』
『奴らが売ってたメシを空腹に耐えかねて食ったモンの中に死んだ奴が出たらしい』
なんて放置してるのに、どんどん話が膨らんでいっている。
ま、結局自分達の不満のぶつけどころを探してたんだろうな。それが弱いスラムの人達に向かってるんだろう。
これが、『食料、お前達だけが買ってるなんてずるい』『俺達にも売れ!』という話ならスラムの人達もまだ罪悪感なんかから提供する者なんかもいたりしただろうけど、要は『お前らは不正してる、だからお前らの食料を俺達にタダで引き渡せ』と言われて、「はい、分かりました」なんて言う奴がいたら見てみたい。
そんな事されたらスラムの人達が今度は飢える。
一旦奪われ始めたら、そしてそれに抵抗したら、衛兵やらが動いて暴力を振るわれて最悪死にかねない。そして、それに抵抗すれば更に強圧的な手に出るだろう。一度動き出せば、もう止まらない。
そして、それを理解する奴はスラム街の者達にもいる。
いなければ、そう自分達が煽る。
「城塞都市の兵力はその半数以上が街の外で何時戻るかも分からない。その家族は不安になって、それが伝播すれば余計に不満が広がるだろうね」
「そして、この状況では更に食料不足が深刻化するというのはそう遠くない内に皆が気づく。城塞都市上層部は不満のはけ口として、スラムの人達への暴力を見過ごす……止めれば止めたで、街の住人の上層部への不満を煽る」
「そして、来ると思っていた援軍が来なくなるかも、という事は兵士達はすぐ理解するだろうね」
不信、不満、不安、それをさりげなく街中に生える植物の臭いが煽る。
別にそんな特殊なものを匂わせる必要はない。不快な臭いを放つ植物は普通の植物でも多数ある。そんな臭いが街中に漂っていれば不快感は増し、余裕を削る。
「さて、街の住人とスラムの人達はいつまで我慢出来るかな?」
その時はそう遠くないと、そしてその時こそポルトンの陥落の時だと確信出来た。
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