第30話:作戦開始
城塞都市にとって怖ろしいのは敵軍が攻め寄せる事ではない。
もちろん、それはそれで怖いが、もっと恐ろしい事が他に複数あるからだ。
そもそも城が陥落する時、強引な力攻めというのは案外その数は限られている。理由は単純、強引な攻城戦というのは攻め手の損害も馬鹿にならないからだ。
むしろ城が陥落する時というのは、水の手(水源)を断たれる、食料が尽きる、内部の兵が反乱を起こす、疫病が発生するといった要素が大きい。そうした結果、「これ以上、抵抗出来ない」という状況に陥って、降伏してくる訳だ。
「結局は気力を折る事が大事だけど、今回出来るかな?」
「無理だな」
「無理だと思う」
「「「「そうなの?」」」」
ティグレさんとカノンは否定。女子四人組は疑問。まあ、女の子達は攻城戦なんて経験ないだろうしね……。
「『ファンシー・スター』にもイベントとかで攻城戦自体はあったけど……」
「あれは真正面から戦って敵の要塞を攻略していく、って形だった」
成る程。
気力とかそうした気持ちの落ち込み度合いをも組み込んだリアル追及型のゲームじゃない限り、そんなもんだよな。実際、そうじゃなきゃゲームにならないって面もあるだろうし。
「だけど、そんな攻城戦をやってたら、今回エルフの人達がどれだけ死ぬ事になるか分からない」
「だな。それに、時間もかかる」
「いくら常葉が頑張ってくれても、相手の国も面子ってものがあるから増援絶対出すよね」
現在、森の侵攻は着実に進んでいる。
植物の侵攻。
放棄された村、建物、道は自然へと呑み込まれていく。その中で先兵となるのが植物。建物に絡みつき、割れ目から顔を出し、道を覆い、その結果として砕き、覆い、取り込んでゆく。
前回の戦いにおいて、本来よりも森が前にあったのはそれだ。そこに魔法植物すら混ぜて、今は侵攻速度を大幅に上昇させている。少しでも速度を上げる為に、最近は深夜にカノンに空から事前に仕込みをした種を蒔いてもらっている。お陰で何とか予定の期日までに目標となる城塞都市まで到達出来そうだ。
「やっぱり来るんでしょうか……」
マリアがそう呟いた。
何故か知らんが、先だってつい「マリア」と呼んでからというもの、妹達がどこか優しい笑顔になる。
まあ、それはさておき。
「普通なら来るだろうね。敵が攻めて来た時、増援を出すというのは上の義務と言っていい」
特に裏切りとかの問題がある訳でもない部下が攻められた時にきちんと後詰を出す。
それをやらないような奴は自然と部下達からの信頼を失っていく。会社なら命までは取られないが……国でそれをやれば、崩壊しかねない。そうなれば、上に立つ者の中には殺される者だっているだろう。ただ、逆に言えば……。
「攻められた、と知る事が出来なければ後詰は来ない」
「それはそうでしょうけど……あ、カノンさん」
は、追撃して伝令に仕事をさせないのが仕事になるね。
四六時中見張ってる訳にはいかないから、そっちはそれが可能な自分の役割になる。
「現在行われている作戦通りに進めば、奴らが伝令を出すのは最後の頃、こちらの詰めの段階になっているはずだ」
自分達で何とかなると思えば、伝令は出さない。
伝令が都市の危地を伝えなければ、王国側は都市が陥落の危機だと知る事は出来ない。
知る事が出来なければ、増援がやって来る訳もない。
「今回はなるべく損害を出さない方向で行くんでしたっけ?」
「うん、双方にね」
女の子達には言えないが、別に情けをかけての話じゃない。
今回の城塞都市ポルトンは予定通りに行けば、自分達の勢力圏になる。その時、下手に民衆から敵意を買っていれば……史実のベトナムなんかと同様、ゲリラ活動、レジスタンスが成立する。いや、どんなに上手くやってもそうした王国側に力を貸す勢力が生まれるのは避けられないだろうが、少しでもその勢力を減らさないと安心して都市を使えない。
逆に言えば、そうした考慮をする必要がなければ……いけない。何を物騒な考えになってるんだ。
どうにもこの世界へ来てから、物騒な思考が頭に浮かぶ。……カノン達も同じなんだろうか。
「ティグレさん、第一段階は順調なんですよね?」
「おう、連中、弓は上手いからな」
それだけじゃない。
ないんだけど……こっちは更に女の子達には言えない。
……現在、城塞都市に向かう商人達への襲撃を行わせている。なるだけ死なせないように考慮はしてるが、護衛達を排除しないと危険なのでどうしても死者が出ている。
この時、エルフ達は極力顔立ちを隠し、表立って動かすのは先の戦いで捕虜にした連中だ。
あれだけの戦いだ。捕まえた奴らを皆殺しなんて事が出来る訳もなく、かといって下手に逃がす訳にもいかないのでこっちの「種」を植え付けて、逃げる事が出来ないようにした上で「先日の敗戦での脱走兵が盗賊になった」ように見せかけている。
実際、敗戦の後、逃げ出した連中が下手に戻れず盗賊になるケースは多い、らしい。
そして、盗賊に対応するのは各地の領主の仕事だ。余程の大盗賊団でもない限り、国からの支援を求める事は貴族にとって弱みを見せる事になる、はず。
(そして、一番に商人達が持ち込む物資の量が減って影響を受けるのは貧しい層……)
特にスラム。
そうなってからが第二段階だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます