第29話:常葉チーム(だけ

 実の所、ブリガンテ王国って国はそこまで人族至上主義じゃない。

 調べてみると、王国内には獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔族、魔人族らが普通に暮らしている。あ、魔族と魔人族の違いは魔法に長けた種族なのか、それとも身体強化に長けた種族なのかの違いぐらいに考えておけばいい。

 こうした点はやっぱりかつて小王国群を呑み込んで、それらを懐柔して取り込んでいった部分があるからだろうな。小さな国ってのはそこそこの規模の部族でもそれなりの発言権を持っていたりする。百人の部族でも千人しか人口のいない国じゃ無視は出来ない。

 ただし、現状では獣人族、エルフ族の立場は悪い。

 理由は単純だ。エルフ族は言うまでもない。最大勢力である大森林地帯のエルフ族が現在敵対関係にあるからだ。そして、獣人族はブリガンテ王国の南方地帯において最大勢力だった……。

 これに比べれば、エルフ族の大森林地帯を超えた更に先に居住地があるドワーフ族や、そもそも傭兵稼業を積極的に営んでいるが故に国というものを持たない魔族、魔人族らはそこまで問題は発生していない。


 「だから、エルフ族が抵抗をやめてブリガンテ王国に服属するってならすぐには無理だろうけど、百年とかそれぐらいもすれば普通に暮らせるようになってる、かもしれない」


 まあ、無理だろうけど。

 実際、そう言ってはみたけど聞いてた若手達も渋い顔をしてる。

 百年ぐらいならエルフ族にとってはそこまで長い時間じゃない。けど、百年後、本当に問題なく普通に暮らせるようになっているには積極的にブリガンテ王国の為に活動してみせる必要があるだろう。そうやって、『自分達はブリガンテ王国の一員です、そうなろうとしてます!』と示さないと何時まで経っても扱いは良くならない。

 どこの国だって戦では自国の為に戦う!という姿勢を示す事を求められる。例外な国なんて本当に極一部の例外だ。

 

 「エルフ達の数は増えにくいしね。元々の数が厳しいから危険な仕事でも積極的に引き受けてやってかないと実績としては認められにくいし」


 それも難点の一つ。

 世の中には繁殖力が弱く、一旦減少したらなかなか増えないという動物が普通にいる。エルフ族も同じだ。

 

 「まあ、何が言いたいかっていうとだね」


 どうやってこっちの損害を極力ゼロにしつつ、都市を陥落させるか、って事に凄く悩んでる訳!

 現在は複数のグループに別れて、作戦を考えてみている。

 ティグレさんを中心に紅とユウナを加えたチーム、カノンを中心に咲夜ちゃんが加わったチーム、そして自分、常葉チームだ。それぞれが作戦を検討して、立案し、発表した上ですり合わせて最終的な作戦を決定する予定になっている。

 

 「あの」

 「なにかな、マリア」

 「常葉さんやカノンさんの力でどうにかするって事は出来ないんですか?」


 うーん。


 「出来ない事はない。ないけど、それじゃ自分達に頼り切りになってしまうからね……」


 それが問題なんだ。

 自分達はいつか帰る。あまり考えたくはないが、誰かが倒れる可能性だってある。それが病気か、もしくは死かは分からないにせよ可能性はゼロじゃない。

 今回相手するのは国じゃない、都市だ。これぐらいなら多少大きな失敗があっても自分達がカバー出来る。


 「なるだけ自分達の力なしでどうにか出来る部分はして欲しい、って所だね」

 「なるほど」


 マリアがちらりと周囲に視線を向けた。

 ……ああ、成る程。周囲のエルフ達にもそこら辺を理解させるため、か。

 今のマリアの言葉に「なるほど!」とばかりに頷いてる者が複数いる。


 「とはいえ、これまでそうした都市を攻める策ってものを考えた事はなかっただろうしね。今回はそうした勉強を兼ねて幾つか提案していくから考えてみて欲しい」


 オーソドックスなものから、王道なもの、えげつないものまで色々と。

 人の歴史って奴は戦争の歴史であり、その中には城や都市を攻めるものも多い。というより、大きく分けるなら野戦か、城や都市を舞台とした攻城戦かのどちらかだ。塹壕とかを利用した野戦築城なんかもあるけど、それはとりあえず置いといて。

 大軍でないと意味がないやり方や、時間がかかりすぎるやり方は今回は却下だ。

 まあ、攻城戦は長期間になりやすいんだけどね……例えば戦国時代の秀吉の三大城攻めの内、最も長い三木の干殺しは一年半以上。他の二つでも数ヶ月を要している。

 そんな長期間、大軍を必要とする包囲戦なんて無理だ。

   

 「とはいえ、焦っても仕方ないからなあ……一月は覚悟すべきだろう」

 

 内部から崩壊させる策が今の所一番だろうな。

 強硬策は論外、包囲戦には数が足りない。水の手を断つというのも相手の規模がでかくなれば難しい。河とかを引き込んでるなら別だけど、今回の都市は山岳地帯の雪解け水が豊富に流れる地下水を用いた井戸を活用しているらしいし。

 幸い、都市にはつきもののスラム街はある。

 都市というものは正門は厳しくとも、スラム街は手薄だし、そうしたスラムの住人というのはどこかに都市へと侵入する抜け道を持っていたりする……。

 ……そんな知識、自分はどこで手に入れたやら。

 これも、ゲームの設定の裏付けの為、なのか?

 ゲームにはそんなスラム街なんてものは出てこないぞ?もちろん、多少の裏社会の住人って奴は出てくるけど。

 ……それも補正されてるんだろうか?


 「常葉さん?」

 「あ、ああ。すまない。ちょっと考え事をね。さて、それじゃあ話を続けようか」

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