第27話:先へ進むために
エルフの国の成立。
それは急速に進んだ。
……形だけは。
「でもとりあえず、形だけでも作るのが重要だと思うんだよね」
これまではその形すらなかった。
これから器に盛って、中身を整えていかないといけないけれど、そもそも盛る為の器がなかったら何も盛れない。
さて、問題は……。
「今、エルフさん達は首都となる場所にとりあえずの建物を作ってもらってる」
「それと並行して、軍事力の抽出も行わないといけねえんだが、そっちは若い連中が案外手を挙げてきてらあ」
カノンとティグレさんから状況を教えてもらう。
こっちは最近は別の仕事してたからなあ。
どうやら上層部の老人達はなまじ長く生き続けてきたせいか危機感が足りないというか、これまでと変わらない日々が続いていくとどこか無意識で考えていたというか動きが鈍いが、若い連中は意外と素直に危機感を持ってくれたようだ。
やはり、大森林地帯が確実に減っている姿を見せられた事がそれに繋がったようだ。
「なんで数だけは揃うだろ、数だけは」
「ま、訓練もせずに戦力になる訳がない。武器の扱いは弓とかは問題ないにせよ、行軍とか輸送とか軍には色々あるから」
そりゃそうだよね。
「だから、こうやって勉強に来てもらってる訳だけどよ……」
ちら、とティグレさんが他のエルフ達に視線を向けるんだけど……全員が困惑している。
「お前らはこれからどうしたらいいと思う?俺らには俺らの腹案があるが、お前らはどう思うか意見を言ってみてくれ」
顔を見合わせたエルフ達はしばらくしてから一人が、それを契機にまた別の一人がとためらいながら発言していった。その内容をまとめるのならば。
『奪われた森を取り戻す』
『人族の土地に攻め込む』
といった攻撃的なものから。
『これ以上森を奪われないよう守る為の村を作る』
『協力関係を築けるよう一緒に狩りなんかをする』
といったものまで様々だ。
ただ、基本的にこの場にいる時点で「今のままだと拙い」と理解して志願してきた者達である事は変わらないので考えて発言はしてくれている。さて、そろそろかな。
「おっし、んじゃ常葉にカノン。お前らはどうだ?」
「そうですね、自分はまず相手にこちらの力を認めさせない事にはどうにもならないかと」
「同じく。それで偵察してみて感じた事なんですけど、今のままだとエルフさん達だけじゃ足りんのですよねえ……数が足りない」
どこかむっとした様子のエルフ達の様子を見て、カノンが補足する。
エルフの狩人が幾ら精強でも、現状での軍としての数は精々数千がいい所。これに対して、相手は万単位の規模の軍勢を動かせる。
更に回復量も桁違いの差がある。
エルフ達は出生率や、大人になるまでの時間が長い。百年という期間で見ればエルフ達はやっと一世代かそこら、これに対して人の場合は四世代から五世代にもなる。
「つまりだなあ。連中が攻めてきて、お前らが痛い目を見せて追い返したとするだろ?その時、こっちの損害が千人のエルフがいたとして百人ぐらいがやられたとする。で、あっちの損害は三万人の内一万だったとする。でもな、こっちが百人を回復するのに百年ぐらいかかるのに、あっちは一万を回復するには十年もかからねえんだ」
ぎょっとしてるな。
「分かるだろ?百年の間に十回攻めて来て、同じ事が繰り返されたらこっちは九百人減ったから残りは百人しかいないのに、あっちは三万のまま押し寄せてくるんだ。……十一回目で完全にこっちは消滅するな」
『『『『『『………』』』』』』
一人で百倒してもまだ足りない。
こっちの損害は限りなく毎回ゼロにして、その癖相手には多大な損害を与えないといけない。……うん、エルフだけじゃ絶対無理。
「なんで味方を増やす。協力出来る連中を増やして、攻めてくる連中に対抗する」
当初は獣人達との協力関係を築く事を考えた。
けど、調べてみると山脈越えは大変だし、あっちは今回エルフ達が敵対してる国とは国境を接してないとか色々あるんだよね。
だから別方向を探して良さそうな場所は見つかったんだけど……。
「だが、その前に落としておかないといけない場所がある」
そう、味方を増やす為に進むのに邪魔な場所。
「ここから一番近い連中の都だ」
まずはここを攻め落とさないとね。そのために準備してきたんだ。
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