第26話:エルフ統一戦3

 エルフ達がどこか不安そうに集まっている。大半のエルフ達はどこか老いた雰囲気がある。

 エルフという種族は老い方が人のそれより遅い。

 それでいて、老いているのが分かるのだから、相当な高齢なのだろう。あるいは人非ざる自分の感覚がそうと認識しているのか。


 「よく来てくれた」


 自分達の前に立つのはティグレさんだ。

 七人で話し合って、それが一番良いと判断した。

 四人娘の経験は少なくても、数少ない異世界からの知り合いなんだ。情報交換はしっかりやっておかないとろくな事にならない。異世界転移したメンバーで争うなんて冗談じゃない。 

 そうして、決まったのがティグレさんが表立っての顔となる事。

 自分とカノンの二人は補佐役として顔は売りつつも、最高責任者としては立たない。


 『お前らもきっちり覚えていってくれよ?』


 とはティグレさんの言葉。

 そりゃまあ、一人に全部背負わせる訳にはいかない。自分とカノン、慣れてきたら四人娘も手伝っていく予定だ。

 こちらの世界に来て実感した事だけど、ティグレさんの獣人種族に比べて、自分やカノンのようなモンスター種族はかなり強力だ。

 これが『ワールドネイション』であれば装備の種類だとか、兵の個別の強さ、コストなどでバランスを取る事が出来た。けれども、今は装備は持ち込んだ物が全て。咲夜ちゃんはドワーフ族だから生産というか鍛冶にも優れたスキルを持てるはずだが、始めたばっかりの子が作る物と、ティグレさんが持っているような一流の生産職であるプレイヤーメイドの製品を比べるのは酷ってもんだ。何より、素材がない。

 ゲームでなら、レアな金属、例えばミスリルだのオリハルコンだのヒヒイロカネだの。そうした物もクエストをクリアすれば手に入ったり、お金を出せば上級プレイヤーから購入する事も出来た。けれど、こっちの世界はそうはいかない。

 念の為にエルフ達に聞いてみたが……。


 『み、ミスリルとは神の金属と謳われる伝説の金属でございましょうか!?』


 という反応が返ってきた。

 どうやら大国の宝物庫にならミスリル製の宝剣の一本ぐらいならある、かもしれない?という事らしい。

 当り前だけど、元々金属に関しては縁の遠いエルフ族には大集落であっても神の金属と呼ばれるミスリルなんか欠片もなかった。別に金属に忌避感があるとかそういう訳ではないらしく、武器にはちゃんと金属を使っているし、料理とかには刃物を使っている。

 それでもやはり最小限にとどめているのだろう。

 尚、ドワーフ族とは別段仲が悪くはないらしく、大森林地帯の奥にある山脈に住むドワーフ族とは協力関係にあるらしい。

 元々住む場所が山や洞窟などのドワーフ族と、森のエルフ族では明らかに違う。加えて、どちらも人族とは仲が悪い。エルフ族は森を狙われて、ドワーフ族は金属加工の優れた技術を狙われてきた歴史がある。敵対している余裕などなかったのだろう。

 仲が悪化するとしたら金属加工の為に森を伐り倒すかどうかだが、エルフ族は自分達の世界でいう所の間伐を定期的に行い、森を維持している。この間伐した材木や食料を提供し、ドワーフ族から金属製品を手に入れているそうだ。ドワーフ族にしても、大地から燃える石(石炭)を掘りだしている上、必要な材木をある程度は山で育てているそうだ。

 今後はそちらのドワーフ族とも協力関係を築いていきたいなあ。

 なんて考えている内に、ティグレさんはさっさと話を進めていた。いや、最近は並列思考という奴が物凄く便利なお陰で、同時進行で物事が進められていくもんだから……。

 

 「という訳で、首都となる集落を構築すると共に議会に代表を出してもらいたい」


 困惑した様子だ。


 「あの、首都と申しましてもどこに」

 「植物の精霊殿が協力してくれてな。森の一角に広い土地が開けている。そこを使う」


 どよめきが起きた。

 いやまあ、実際は植物魔法で移動してもらっただけなんだけどね。

 さすがに植物の精霊王の名は大きく、すんなりと話は済んだ。相当な巨木でも一切樹木を傷つける事なく、簡単に移動させられる事に内心驚いたものだ。こんな技術があったら、楽だろうなあ。お陰で、下草すら生えていない場所がぽっかりと森の中に出来た。実はエルフ達は間伐木材を用いて普通の家を作っているため、ここに都を構築する事になるだろう。耐火対策は水の精霊による。

 物語だとツリーハウスというイメージがあったんだが、それは極一部だ。

 まあ、そうだよね。面倒だもの。

 長い時間をかけて少しずつ形を整えて行くという事は家族が増えたりした時に部屋を増築するという事も出来ないし、万が一火事が起きた時は急ぎ新しい家を用意する、という事も出来ない。新しく樹木を利用した家を作るには百年単位の時間がいるせいで、独立して家を立てる、という事も難しい。

 なので、何時しかエルフ達も普通に森の中に、自然を活かしつつも家は普通に造るようになったようだ。物語に見るようなツリーハウスはあくまで部族ごとの象徴、会議場などに用いられているだけで現在は新しいツリーハウスは基本的に予備や代替として以外は作られていないというから、首都を作るのも問題はないだろう。


 「議会とは……」

 「要は国で決めた事を各部族に伝え、また部族の希望を国に伝えるものだ」


 例えば、部族で対処出来ない魔物が出たから国で対処して欲しい、といったお願いをする代わりに一定額を国に納め、国はそれでもって道を整えたり、軍を整備したりする。


 「面倒だと思うかもしれないが、人族の勢力は着々と伸びているのだ。これを見ろ」


 おおまかな地図を示す。

 片方は二百年ほど前の大森林地帯の地図、もう片方は現在の地図。それを見たエルフ達から呻き声が漏れた。

 そうだろうな、この二百年の間に大森林地帯はおおよそ五分の一を失った。

 少しずつ失っていったせいで、実感がなかったんだろう。でも、こうして見れば一目瞭然、少しはエルフ達も国という形で対抗する事に協力的になってくれれば……。

 

 

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