第25話:エルフ統一戦2
『まあ、あれだ』
「うん?」
『今度は犠牲って奴をなるだけ出さないようにしたいもんだ』
騎士団が攻め寄せた時、こちらには余裕がなかったからな。
そんなティグレさんの言葉に頷いた。
そう、あの時は自分達には余裕がなかった。
『ワールドネイション』時代の力をそのまま持ってきた、それが凄いのは分かる。けれど、この世界の実力者達相手にはどうなのだろう?自分達を召喚したエルフ達は別に世界でも有数の凄腕術者ではなく、巨大な森林地帯に住むエルフ達、その中でも小さな部族の面々に過ぎない。
もしかしたら、攻め寄せて来た大国の騎士団には、自分達程度ではあっさりやられかねないような猛者が混じっているのでは?
騎士団以外の連中が余裕綽綽なのはそれが可能なだけの化け物がいるからではないか?
そんな疑念を自分とティグレさん、カノンの三人はどうしても拭いきれなかった。四人娘はまだ自分達が弱い部類だと理解していたから、より強い奴がいたとしても驚いたりしないだろうけど、逆に言えば彼女達を下手に前線に出せばあっさりやられる可能性だってあるという事だ。
だからこそ、あの戦いでは自分達は極力安全を取って、全力を叩き込んだ。四人娘は経験を積めないのを分かった上で、前線から遠ざけた。
結局の所、あれはどう言いつくろった所で、傍目には圧勝、虐殺に見えたかもしれないけれど暴力に慣れていない者がやらかした過剰防衛に過ぎない。
幸いというか、一国の騎士団や貴族が雇うような傭兵にも自分達に匹敵するような相手はいなかった。油断はしてはいけないし、当面はまだ警戒が必要だろうが、そうそうそこらに自分達並の相手が転がっている訳ではない、と推測出来たのはありがたい事だ。
『といっても、やらないといけない時にはそうも言ってられねえけどな』
「分かってます」
そう、それでもやらないといけない時はある。
けれど、今回は……。
『さて、やるか。頼むぜ』
「ええ」
今回は同じエルフ相手だ。
今後、国を造り、同じ国の民となってもらわないといけない相手。そんな相手となれば犠牲は双方最小限に。犠牲が出れば、双方に遺恨が生まれる。
「なので今回はこちらがやりたいようにやらせてもらう」
本体たる常葉がいるのは集落から遠く離れた地。
本体である常葉自身は他の作業も並行して行っている。
だが、そうでありながら複数のまったく異なる作業を並行して行えている。怖くもあるが、今はこの便利な感覚を利用し尽くすとしよう。
『『『『『なんだあっ!?』』』』』
悲鳴が上がる。
そうだろうな、出撃してきたエルフ達は次々と動きを止められている。
植物魔法【草枷(グラスホールド)】
簡単に言えば、草とか木の枝、蔦なんかを一気に伸ばして、相手を拘束するという魔法だ。
慌てて、彼らも魔法を行使しようとしているが、無駄だ。
『どうしてっ!』
『なぜ、解けない!?』
そりゃそうだろう。君達エルフの行使する魔法は精霊魔法、世界を運行する精霊達に呼び掛けて力を行使してもらう魔法だ。
けれども、現在、彼らを拘束しているのは当の精霊達自身の意志。言ってみれば、自分達を取り押さえている当の相手に「放してくれ!」って言ってるようなもんだ。
『さーて、どうやらお前さん達よりこっちの方に植物達は味方してくれてるみたいだな』
ティグレさんも性格悪い……。
ニヤニヤと笑いながら言うものだから、出てきた連中全員悔しそうにしている。
『さて』
それでも仕事を思い出したのか、真剣な表情になって口を開いた。
『どうする。お前さん達は傲慢になり、他のエルフ達を見下し、ひいては森を下に見ていたって事じゃねえのか?』
『そんな事は……』
現実に拘束されて、全然精霊魔法の呼びかけにも反応してくれないせいか、声に元気がないな。
結局、心が折れたのか、連中は素直に降伏した。
部族の長老達はうかつに出撃した若者達を「愚か者」と冷たい目で叱りながら、「そこで見ておれ」と自信満々に大規模な精霊魔法を行使しようとしたんだけど……うん、全然発動しなくてめっちゃ焦ってたな。次第に真っ青になりながら、初級の駆け出しクラスの精霊魔法まで一切発動しないって現実に真っ白になって力なく崩れ落ちてた。
それを見ていた大部族の若者達はいっそう「自分達が間違っていたのか……」という思いを強くしたみたいだった。
……すまん、精霊達はやっぱり同じ精霊から声をかけられた方に従ってくれるらしく、おまけに自分は精霊王の一体。司るものは違えど、自分達の王と同格の相手からの「あいつらの言う事に従わないように」という呼びかけには火も、水も、風も素直に従ってくれたんだ。
その後、森への謝罪と、改めて他のエルフ達と協力してゆく事を誓った後、再び精霊魔法が使えるようになった事で、「我らが間違っていたのか……」と凄い反省して、以後は凄く協力的になってくれたんだが、これってマッチポンプというんじゃないかね?
……犠牲が出なかったんだ、よしとしよう。
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