第24話:エルフ統一戦1

 大森林地帯にはエルフの部族が幾つもある。

 もっとも、本当に大規模なものは限られる。大抵の部族は俺達をこの世界に呼び出した部族がそうだったように、小さなものだ。それでも、そんな小さな部族でも俺達、異世界人をこの世界に召喚する事は出来た。そんな技術を持っていた。エルフ達はこの世界では優れた魔法技術を持っていると言ってもいいだろう。

 そして、エルフ達が厄介なのはそうした優れた魔法技術に加えて、森の中での戦闘に長けている事だ。だからこそ、長年大森林地帯で大国の侵攻を食い止め続ける事が出来た。


 「もっとも、馬鹿には違いないがな」


 俺の言葉に周囲のエルフ達が何とも言いづらい顔になった。

 まあ、分からんでもない。俺達がこの世界に来るまではこの大部族は彼ら小部族の連中にとっては最後の頼みの綱だっただろうからな。

 そして、大部族の連中もそれを理解していた。

 だからこそ、増長した。本当なら、エルフの国というものを大部族達の連合を組んででも成立させるべきだった。小部族は大部族に組み込み、同じ部族として扱う。同じエルフで、外からは人に攻められているんだ、きちんと状況を理解すればそれが出来ただろう。

 だが、大森林地帯の奥にいたせいで見誤ったんだろうな。

 大部族が小部族を搾取(さくしゅ)する形になってしまった。いざとなれば守ってやるから、代わりに貢物を差し出せ、って訳だな。それも人側の攻勢が強くなるにつれて要求する量は大きくなった。その癖、今回末端の部族が攻められた時にはまともに後詰すら出さなかった。

 まあ、見切られて当然だな。

 周辺の小部族は今回、人の軍勢を下した俺達に賭けた訳だ。


 「殿、連中閉じ籠ったままで出てくる気配はありませぬ。予想通りです」

 「ああ、分かった」


 もう一つ驚いたのは大森林地帯には獣人族も暮らしていた事だ。

 でも、考えてみりゃあおかしくはない。平地で暮らす獣もいれば、森で暮らす獣もいる。俺、ティグレのモデルである虎なんかも密林地帯で暮らす獣だ。大規模な獣人の部族があるのは大森林地帯の北方にある山脈を超えた更に先にある平原地帯、そこで遊牧民的な生活をしているらしいんだが、おそらくはそこで暮らしづらかった一部の獣人達が山脈を超えて、大森林地帯に流れ込んだんだろうな。

 エルフ達が大森林地帯にそれなりの勢力を張る以前にはもう入り込んでいたから、エルフ達も今更出て行けとは言いづらかったんだろう。

 その獣人達もここまで進攻してきた中途にあった連中は軒並みこちらについた。やはり連中も次第に増長し、要求額は増え、その癖いざ人族が攻めて来た時に兵を出さなかった大部族を見切ったんだろうな。あてにならない、と。

 けど、なんで「殿」なんだ?

 もしかしたら、俺達以前にも召喚された奴がいたのかもしれない。

 ……ありえるな。召喚の陣があった、開発されたって事はそれを必要とした奴らがいたって事。俺達をあれだけの小さな部族連中が呼び出す事に成功したんだ。過去に召喚の技術を開発した連中が召喚を行っていないなんて考えない方がいい……いや、待てよ?


 (これからさらに召喚される奴が出るかもしれない、か?)


 もしくはすでにこの世界には他にも召喚者がいるかもしれない。そして……。


 (俺達がゲームから召喚されたとなると、その召喚された奴が別のゲームや世界って可能性もあるか)


 「……あの、殿?」

 「お、おお。すまん、ちと考え事をな……それで連中どうだ?」

 「はっ!いずれも上は大慌てで意見がまとまらぬ様子、故に下が苛立ちを隠せぬ様子。このままであれば出撃もありえるかと」


 ふん、常葉(とこは)の諜報はさすがだな。

 常葉には他にもやる事があるが、凄まじいのはその分割思考能力だ。以前はこんな事出来なかったと言っていたし、実際人に出来る事とも思えない凄まじい能力だ。それで諜報を行ってくれているお陰で、エルフの部族の内部情報まで筒抜けだ。

 ……連中もまさか、相談してる場所自体が盗聴器みたいな事してるとは思わないだろうな。

 潰すだけなら一瞬なんだが、今回ぐらいはエルフ達自身の手でやらんといかんからなあ。

 なにせ、遠方の部族に関してはカノンの奴が主だってやる事になっている。何しろ、大森林と呼ぶだけあって広いんだ。エルフ達でさえ森の中を移動するとなると結構な時間、それこそ「待ってられるか、そんな時間!」と叫びたくなるぐらいには。 

 だから、そちらはカノンに任せる。

 空を征くあいつの速度なら大森林地帯の端から端まで移動するのも簡単だ。そして、制圧も。


 「出てきました!」


 遂にしびれを切らして出てきたか。

 ふん、年寄りは理解していても、若い頃から傲慢な意識を植え付けられて育った連中には今の閉じ籠っている状況は我慢出来なかったな。

 

 「さて、やるぞ」


 ふん、エルフ達の伝統的な戦い方ってのは有効だから使われてきたんだ。

 ……数に任せて、真っ向から門を開いて打って出るなんて馬鹿げた真似だって事を教えてやろう。


 「やつらつっこんできます」

 「よし、教育してやるか」

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