第9話:ゴーレム

 「きもいよ兄貴」

 「不気味」

 「さすがにこれは……」

 「何とかならないのですか?」


 女性陣からはゴーレムは不評だった。

 もっともエルフ達もどこか顔が引きつってるから内心は同じなのかもしれない。


 「気持ちは分からんでもない」


 そうティグレさんからも言われた。

 もっとも俺も初めてこれを見た時の事を思い出して、少し懐かしく思ったものだった。

 『ワールドネイション』の植物型ゴーレムは初めて見た者は大抵「なんでこんな造形にした!」と叫ぶのがお約束と言われるまでに独特な外見をしている。なにせその見た目は筋肉繊維剥き出しのボディビルダー、ただし顔は卵型ののっぺらぼうで、筋肉繊維は植物の蔦などで構成されているので肉の生々しさはない。

 それでもゴーレム作成すると蔦などが絡み合って肉体を構成し、完成した事を示すようにボディビルの各種ポージングのいずれかを取るのは何を考えてこんな設定にしたのかと思ってしまう。

 

 「ねえ、他にないの?」

 「あるにはあるんだが」


 ウッドゴーレムとか。

 こちらは丸太を組み合わせたみたいな武骨な姿だ。問題は……。


 「あっちは重機みたいな扱いなんだよな」


 図体はでかく、パワーもあるが動きが鈍い。

 おまけに丸太なだけあって見た目通りに火にも弱い。

 なので戦闘用に使えるかと言われると疑問と言わざるをえない。

 それに対して、最初に見せたボディビルゴーレム。こちらは動きは俊敏で、たっぷりの水分を含んでいるからなのか、それとも構築する植物の質なのか火にも強い。人体を模しているからなのか、様々な格闘技もプログラミングされているようで主にプロレス技を好んで使う。植物魔法を限定的ながら使用し、ロープ状に蔦を張って、相手をロープに振ってからのドロップキックなんてかました時には目を疑った。

 ネタ要素をたっぷり詰め込まれてはいるが、強い事は強いんだ。

 

 「むしろ強くないと使ってもらえないと思ったんじゃないでしょうか?」

 「それには賛成します」

 

 とは陽菜ちゃんと摩莉夜ちゃん、じゃない咲夜とマリア(呼び捨てでいいと言われた)の言葉。

 内心、俺自身も運営のそうした意図を感じてはいる。

 さて、こうやって作って動かしてみたのは、実際にゴーレムが戦闘に使えるかどうかを確認するためだった。

 結果から言えば、使えると判明した。

 どうやら作成時に作成者とある程度のリンクが成立するらしく、敵味方の識別などは作成者、この場合は俺こと常葉(とこは)の認識に従って行動するようだ。ただし、そのリンクは作成者の認識の範囲内でのみ成立するようで作成者の認識の外側にいる場合には事前に受けた命令に従っての行動しか出来ないみたいだ。

 これは魔法使いのクラスを取得したマリアが簡易ゴーレムを作成してみて判明した事だった。

 彼女の作成したゴーレムは彼女の視界で動く内は割と高度な判断が可能なのに、森の中に分け入ると急にバカになってしまったからだ。

 エルフであるマリアの魔法で造られたゴーレムも、俺が植物魔法で生成したゴーレムも同じゴーレムだ。ただし、植物の精霊王というクラスにある俺の認識範囲は怖ろしく広い。そこで他の術者が作成した場合はどうかと思って、やってみた結果判明した事だった。

 例えば、見えている範囲でなら声を張り上げたりしなくても、「薪を集めろ」と言われたらマリアが背中を向けていても割とまともな作業をする。薪に向いているようななるだけ乾燥しているような細めの枝を拾うという行動を取る。

 ところが、森の中に入らせて、マリアが振り向いても見えないような場所で同じ「薪を集める」作業を開始させるとひたすら木を集めようとする。

 そう、木だ。乾燥しているかいないか、細いかどうかなんておかまいなし。腐った倒木を持ち上げようとしたり、下手すればまだ生えている木を引っこ抜こうとしてジタバタしていたりする。


 「常葉さんぐらいしか戦力に出来そうにないですね」

 「そうだね……」


 マリアの言葉に頷いた。

 確かにこれじゃ他のエルフ達に教えても単純作業の手伝い以上の事は無理だろう。

 逆に言えば、傍を歩きながらの力作業、薪になりそうな倒木を運ばせるといった単純作業には使えるだろうから、将来的には教えるのもありだな。

 ただ、戦闘では無理だね。


 「まあ、いいじゃねえか。常葉、お前さんが使うの限定でゴーレムが戦力になるってのはいい話だぞ?二重の意味で」

 「そうですね」


 ティグレさんの言葉に頷く。

 確かにそうだ。俺が作ったゴーレムは戦闘に使える、そしてこの仕様なら敵がゴーレムの部隊を使ってくるという事もないだろう。


 「しっかし、お前らが羨ましいぜ……カノンの奴はまだ戻ってないんだな?」

 「ええ」


 きっとまだ置物みたいに座ったままのはずだ。

 でも、敵の偵察が出来るのはお前か俺しかいないんだ、すまん。

 実際にティグレさんが言う通り、ゲームでは色々と制限がかけられていた俺達の力はこちらの世界に来て、自由度が上がった為に俺達の力は大きく増大したと言っていい。

 カノンが偵察している間に、俺はとりあえずゴーレム軍団を造るつもりだ。……それだけじゃないけどね。

 

 「緑色のマッチョマンが無数に無言で立ち続けてる状態になる訳か……知らない奴が見たらホラーだな」


 ……確かに。

 女性陣には近づかないように言っておこう。

 

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