自家製グラノーラ

西園ヒソカ

自家製グラノーラ


 大学2年生になった青山にはモデルの友だちがいる。名を荒川という。芸名は“猫山”。猫が大好きだから、と自分で語っていた。

 そんな荒川はモデルにも関わらず食生活が荒れに荒れていた。日々やつれる荒川を見かねて、青山は自家製のグラノーラを作ってやることにした。栄養のあるものを何品も並べるより、軽く、作り置きできるもののほうが、荒川の負担が減ると思ったからだ。


 ピンポンと荒川の部屋のインターフォンを軽く押す。開いてるから入って、と中から疲れた声がした。


「おじゃまします。……荒川、おまえまた猫グッズがふえてないか?」 

「えー、そう? ふつうだよ」


 荒川は猫アレルギーだ。そのかわり、猫じゃらしが未練がましくインテリアとして飾ってあり、玄関からなにまで猫の写真が貼ってあった。

 その中にはなぜか青山の写真も紛れていた。


「……これ、はがせって何回言ったらわかるんだ」

「だって青山、猫みたいで可愛いんだもん」

「うるせ。……おれが作っているあいだ、おまえはちゃんと部屋のそうじしろよ」

「はーい、仰せのままに」


 荒川は茶髪を揺らして笑った。


 青山は台所を借りてさっそくグラノーラ作りにとりかかる。

 ボウルにロールドオーツ、ココアパウダー、塩などを入れ、そこに油を加えてまぜる。それをフライパンで10分ほど煎り、メープルシロップを加えてまた加熱。表面が乾き、粗熱を取ったらドライクランベリーとドライいちご、そしてチョコを入れて完成だ。


「おい荒川、できたぞ」

「おお、さすが青山だな。一緒に食べようぜ」


 みわたすと、どうやら自分の仕事はこなしたらしい。しかし、青山の写真ははがされることなく、逆に増えていた。


「ミルクかヨーグルトか、そのままか、どれがいい」

「ミルクかな、」

「はいはい」


 荒川の目の前にカップを置き、そこにグラノーラをじゃらじゃら、ミルクをさらさら注ぐ。その間荒川はきらきらと目を輝かせていた。


「はい、食べて」

「いただきます、」

「うん」


 口に入れた瞬間、荒川は目を見開いた。


「すげぇ! なんでこんなに美味しく作れるの?!」 

「だろ? さいきん覚えたんだよ」


 嬉しくなってついほほが緩む。荒川はそれを見て、真剣な表情になった。


「青山、」

「……なに、なんだよ。急に真面目になって、」

「俺、おまえの手作りグラノーラを毎朝食べたい」


 ……とつぜんの告白だった。



 ある朝、荒川が言った。


 これじゃ荒川じゃなくて、ただの穏川 おだやかわだな。……なに、それ。意味わかんないよ。……俺もわかんない。ただ、言ってみただけ。



 青山は不思議そうにわらった。

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