天宮満 ⑯

 天宮に恩を返し、無事、怨返しの呪いを一時的に終わらせることができた。


 ……はずだった。


 俺と花月と天宮は、正門で話し合ったあと、一緒に大学の最寄り駅まで歩いて行った。三人とも授業が終わっていて、今日はもう大学に用事がなかったから。人付き合いが面倒な俺でも、その時ばかりは恩を返せたという達成感で、二人と一緒にいても抵抗はあまりなかった。


 俺、花月、天宮。その三人で電車に乗り、帰路が分かれるターミナル駅まで帰るはずだった。だが、そこで不運な出来事が起きた。マヌケな事故と言い換えてもいい。


 俺たちが駅に着くと、電車は出発する直前だった。三人で慌てて改札口を通り、電笛が聞こえる構内のエスカレーターを駆け上がった。


 俺の前を走っていた花月と天宮は、何とか乗車に間に合うことができた。だが、エスカレーターでプラットホームに上った俺は、何もないところで転倒した。今朝から雨が降り、滑りやすくなってはいたが、まさかこの場面で転んでしまうとは。


 二人を乗せた電車のドアは、ひざまずいた俺の目の前で無慈悲に閉まった。ドアの窓の向こうで、花月と天宮が大きく目と口を開かしていた。たぶん俺も、二人と同じ表情になっていたと思う。


 ありえるようで、ありえない不幸。


 俺は立ち上がり、少しずつ加速していく電車を呆然と見送った。


 不幸中の幸いは、勢いよく転倒したのに体に怪我がなかったことだ。少し経つと痛みも引いていった。


 ズボンのポケットに入れていたスマホが振動している。画面を見ると、花月から俺を心配するメッセージが送られていた。優しい女だなと思いながら、無事の返信をした。それと、俺を気にせず帰ってくれと。


 花月とのトーク画面を閉じると、未読のメッセージが一件あった。末治からだ。もしやと嫌な予感をしつつ、メッセージを確認した。


『あなたに恩が着せられました』

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