阪城公大 ④

 俺の話を聞き終え、納得している彼女に素直な疑問を投げみた。


「どうして、そこまで変われたんだ?」


「それは見た目のこと? それとも性格?」


「両方、かな」


「そうだね……」


 彼女は虚空を見上げて伝える言葉を思案した。


「憧れの人物に近づきたかったから」


 彼女が言う憧れの人物に、自惚れかもしれないが心当たりがあった。俺の予想が外れていれば恥ずかしいし、当たっていても困るので、自分から答え合わせはしなかったが。


 彼女を呼び出したのは、劇的な変貌のわけを訊き出したかったわけじゃない。今、尋ねたことは興味本位。本題は、なぜ、俺に怨返しの呪いをかけたかだ。


「どうして、俺にのろいをかけたんだ?」


のろいじゃなくて、おまじない」


「俺には、とてもおまじないをかけられたと思えなかった。恩を返せなかったら、いろいろ恥ずかしくて、痛い目に遭った。ずっと嫌がらせを受けている気分だった」


「それに関しては、ごめんなさい。別に、あなたを好きで苦しめたかったわけじゃないの。私としても心苦しかったけど、必要なことだったから」


 彼女は柔和な笑みを引っ込めて、他人の傷をいたわるように眉を曇らした。ひしひしと彼女の申し訳なさが伝わってくる。それは、俺が駅のプラットホームで転倒し電車に乗れなかった後日、彼女から謝罪された時のことを彷彿させるものだった。


「何のペナルティーもなしに、公大が人から受けた恩を返すことはないだろって、末治君に言われて。ちゃんとルールを設けて、破った時の罰を決めておけば、恩を返さないといけない動悸が生まれて、人との繋がりができるようになるからって」


 彼女はそれらしいことを言うが、たぶんあの美男は、半分以上自分の趣味で俺が不幸な目に遭う呪いをかけたのだろう。彼女の口ぶりから察するに、始めから俺を不幸に陥れる気はなかったようだし。やはり、あの男は危険だ。


「じゃあ、花月の本来の目的は、俺に知人ないしは友人をつくらせることだったのか?」


「うん。昔みたいに、元気な公大の姿が見たかったから」


 花月は遠い過去を懐かしむように、蒼い窓外を見上げた。

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