阪城公大 ②

 のろいと、おまじない。


 言い方が違えば、意味も異なる。


 のろいは、憎むべき相手に不幸な災いが降りかかるよう祈ること。


 反対に、おまじないは、相手のために不幸な災いを除くよう祈ること。


 隣のカウンター席に座る花月は、のろいでなく、おまじないをかけたと俺に言った。換言すれば、俺の幸せを望んだと。


 けれども、彼女が本心から俺の幸福を願っているとは信じがたかった。人から受けた恩を返さなければ災厄さいやくが降りかかる祈りが、善意によるものとは思えなかったから。


 彼女があまりにもあっけなく正体を明かしてしまうものだから、冗談かと思ったがそうではなかった。本気だ。優しい微笑を浮かべているが、それは人をからかう類いの笑みではない。


 返事に困っていた俺に、彼女が言った。


「信じられないって顔してる」


「うん、まだ半信半疑かな……」


「でも、本当だよ。私が末治君に頼んで、公大におまじないかけた」


 怨返しのろいをかけた張本人は、被害者の苦悩などまるで知らずに涼しい顔をしていた。悪事が露見していたという危機感も罪悪感もない。


「最初に私のこと気づいてくれなかったから、当分、気づかれないと思ってた」


「ここまで変わってたら普通わからないって。南場……いや、京橋・・花月さん」

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