終章 阪城公大

阪城公大 ①

 最初から違和感はあったのだ。


 彼女からルーズリーフを受け取った時も。


 彼女が素直に悩みを打ち明けてくれた時も。


 彼女に旧知の間柄のように名前で呼ばれた時も。


 出会って間もないのに、彼女は俺に全幅ぜんぷくの信頼を寄せていた。たった一ヶ月、それも数回しか会っていないのに、完全に心を開いていた。


 気さくで誰とでもすぐに打ち解けられる、社交性に長けた女だと思っていた。それは事実なのだろう。だが、いくら人付き合いが良くても、俺と彼女の距離が縮まるのはあまりにも早すぎた。加えて、誰の目から見ても綺麗な容貌で、性格に何ら歪みのない彼女が、俺のような冴えない男に妙にこだわる理由が不明瞭だった。学もなく、口下手で、夢や目標もなければ、富も財もない俺と、友人関係を築くメリットなど何もないのに。


 一歩引いてみれば、彼女の異様さに気づけたはずだ。しかし、彼女の無垢な笑顔にすっかり陶酔し、懐疑を怠った。


 これまで深く考えないようにしてきた彼女の違和感の正体は、『呪い』の二文字である程度納得できた。俺と彼女のとの間に、何らかの因縁があったのだ。


 ここではっきりさせよう。もう、理不尽な不幸に遭わないために。


 そして、彼女が俺に抱いている不可解な想いを解消するために。

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